
「山が動いた」。アルピニスト・野口健氏がそう叫んだのも無理はない。千葉県鴨川市で進められていた巨大メガソーラー計画に対し、国がついに“伝家の宝刀”を抜いた。
1月9日、資源エネルギー庁は同事業者のFIT(固定価格買取制度)認定が失効していることを確認。事実上の計画白紙化が決定的となった瞬間だった。しかし、取材班が現地で耳にしたのは、勝利の美酒に酔う声だけではなかった。
「濡れ手粟」の36円売電、夢と消ゆ
「まさか国がここまで踏み込むとは……。事業者にとっては悪夢でしょうが、我々にとっては悲願達成です」
そう声を震わせるのは、長年この問題に取り組んできた地元住民だ。 問題の舞台は、東京ドーム約30個分、146ヘクタールもの山林。ここに47万枚もの太陽光パネルを敷き詰めるという「AS鴨川ソーラーパワー合同会社」の計画地である。彼らが何としてもこの計画を進めたかった理由、それは「FIT認定」という“プラチナチケット”にある。
AS社が認定を受けたのは、今から10年以上前の2013年度枠。当時の売電価格は1キロワット時あたり36円という破格の高値だった。現在の入札価格が10円台であることを考えれば、まさに「現代の錬金術」。パネル価格が暴落し、建設費が激安になった現在、当時の高い売電価格で作れば、国民の電気代(再エネ賦課金)を原資に、事業者は莫大な利ざやを得るはずだった。
しかし、その“甘い汁”を吸う権利は、期限切れによって露と消えた。エネ庁は9日、同社が条件を満たせず、認定がすでに失効していたと判断したのだ。
長谷川市長の“重すぎる”コメント
この急転直下の結末に、地元のトップはどう反応したか。鴨川市の長谷川孝夫市長が出したコメントには、安堵よりも「深い警戒」の色が濃くにじんでいた。
市長はまず、「率直な感想として、突然の知らせに驚いている」としつつ、「資源エネルギー庁の厳正な判断に敬意を表したい」と国の決定を評価した。しかし、コメントの真意はその先にあった。
「本市においては、同社による林地開発行為が継続中であることに加え、当該開発行為においても許可条件違反伐採や伐採木の放置等が確認されている」
市長はあえて、現在進行形の「違反行為」に言及したのだ。さらにこう続けている。
「FIT認定失効の影響が今後どのような形で現れるのか、また現在進行している開発行為は今後どのように展開されていくのか、まだまだ注視すべき事項は多い」
つまり、「認定が消えたからといって、削られた山が元に戻るわけではない。むしろ、資金源を断たれた事業者が現場をどう扱うのか、これからが本当の正念場だ」と釘を刺したのである。
専門家が警告する「土石流の時限爆弾」
市長の懸念を裏付けるように、防災の専門家も警鐘を鳴らす。防災エンジニアの佐藤耕平氏は、本誌の取材にこう語った。
「FITが切れても、一度重機で掘り返された土壌の強度は戻りません。パネルを貼らないからといって、そのまま放置すれば次の大雨で土石流が発生する『時限爆弾』になりかねないのです」
実際、現地では県の許可範囲を超えた違法伐採が13カ所も見つかっており、急峻な尾根や谷が無防備にさらされている。佐藤氏は、今後の対策についてこう提言する。
「従来のような『年に数回の目視点検』では不十分です。事業者に対し、撤退条件として『地盤センサーとドローンによる向こう10年間の監視義務』を課すべきです。土壌水分量やわずかな地盤のズレをリアルタイムで検知し、行政にデータを自動送信するシステムを構築させる。ここまでやって初めて、住民は枕を高くして眠れるのです」
「再エネ神話」の終焉
ネット上では、実業家の「青汁王子」こと三崎優太氏が《これはただの事例じゃない。時代が切り替わり始めた合図だ》と指摘し、野口健氏も《メガソーラー神話、崩壊へ》と勝利宣言を行っている。
確かに、環境破壊を伴う「再エネ・ゴールドラッシュ」は一つの終わりを迎えたかもしれない。だが、鴨川の山に残された広大な「傷跡」をどう癒やすのか。市長が懸念するように、市民の安全・安心を取り戻すための戦いは、むしろここからが本番と言えるだろう。



