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エッグフォワード、リスキリング助成金を悪用し、不正受給19.8億円の“エッグい”錬金スキームの闇

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エッグフォワード

「経営中毒」などの著書や意識の高いビジネスコンサルティングで知られるエッグフォワード株式会社が、あろうことか国の助成金制度を悪用した巨大な不正受給に関与していたことが発覚した。その額、30都道府県でじつに19億8000万円。

あまりに杜撰、かつ大胆なその手口は、関係者の間ですでに「エッグいスキーム」と揶揄されている。なぜこれほど巨額の税金がかすめ取られたのか。その巧妙な手口を紐解く。

 

エッグフォワードとは

「企業変革」「パーパス経営」「人的資本」。 エッグフォワード社のホームページや徳谷社長のインタビューには、ビジネスマンの心を掴む美しい言葉が並ぶ。

社長の徳谷智史氏は、大手戦略コンサルなどを経て同社を設立。著書『経営中毒』は、多くの起業家や経営者のバイブルとして読まれ、Amazonのランキングでも上位に食い込むベストセラーだ。彼の語る「個の可能性を最大化する」という熱いビジョンに共感し、多くの有名企業や成長中のベンチャー企業が同社にコンサルティングを依頼していた。

また、同社はベンチャーキャピタル(VC)事業も展開しており、スタートアップへの投資も行うなど、「挑戦する人を支えるリーダー」としての地位を確立していた。まさに、イケてるエリート集団。それがエッグフォワードの表の顔だった。

しかし、その裏側で彼らが熱心に売り歩いていたのは、「社員の成長」ではなく「国の金をかすめ取る」禁断の果実だった。

 

「実質タダどころか儲かる」悪魔の囁き

今回の舞台となったのは、企業が従業員に職業訓練を行う際に費用の一部が助成される「人材開発支援助成金」だ。昨今の「リスキリング」ブームに乗り、国が推奨するこの制度の裏をかいたのが今回のスキームである。

その手口は、一見すると正規の研修契約を装っているが、実態は「カネがぐるりと回って戻ってくる」だけの循環取引に過ぎない。このスキームがいかに甘い蜜であったか、具体的な数字でシミュレーションしてみよう。

ある中小企業の経営者の元に、こんな話が持ちかけられたと想像してほしい。

「御社の社員に500万円分のEラーニング教材を使ってリスキリング研修をしませんか? 高いと思われるかもしれませんが、実は手出しはゼロ。それどころか、最終的に会社に100万円近い現金が残りますよ」と。

 

迂回する「協力会社」という抜け穴

この魔法のような錬金術のカラクリはこうだ。まず、申請企業はエッグフォワード社と契約し、正規の研修費用として500万円を支払う。ここまでは普通の商取引に見える。しかし、ここからが「エッグい」ところだ。

研修契約とセットで、エッグフォワード社とは全く別の「協力会社」が登場する。エッグフォワード社はこの協力会社に「営業協力費」などの名目で資金を流す。そして、その協力会社から申請企業に対して、「業務委託費」や「役務提供費」といった名目で、なんと300万円前後の仕事の発注が入るのだ。もちろん、実態の伴わない形ばかりの発注であるケースが大半だ。

申請企業からすれば、500万円を支払ったものの、裏口からすぐに300万円が戻ってくるため、実質的な持ち出しは200万円で済むことになる。

 

半年後に訪れる「税金ボーナス」

仕掛けはこれで終わらない。研修終了から半年ほど経つと、国から正式に「助成金」が振り込まれる。500万円の研修費に対する助成率は中小企業であれば高く設定されており、約60%にあたる300万円ほどが給付される計算だ。

さあ、電卓を叩いてみよう。最初に支払った実質負担額は200万円。そこへ国から300万円が入金される。差し引きすると、会社には100万円もの現金がプラスで残ることになる。研修を受けたという事実は作りつつ、財布は痛まないどころか膨らむ。まさに「濡れ手で粟」の状態だ。

本来、助成金とは事業主が実際に負担した経費を支援するためのものだ。しかし、別の会社を経由させて資金を還流(キックバック)させることで自己負担をなきものにし、その上で助成金を満額受け取る行為は、明白な不正受給である。

 

公表から10日以上経過も「ダンマリ」の異常事態

今回の問題で、不正の事実以上に企業としての資質を疑わせているのが、事後対応の杜撰さだ。

各都道府県の労働局が一斉に同社の社名を公表したのは12月19日。それから10日以上が経過しているにもかかわらず、エッグフォワード社からは謝罪どころか、事実関係の説明すら一切なされていない(12月29日時点)。

通常、上場を目指すような規模の企業や、コンプライアンスを重視する企業であれば、こうした重大な公表があった直後に「事実確認中」や「厳粛に受け止める」といった何らかの声明を出すのが鉄則だ。

他社に対しては「あるべき経営の姿」や「組織のガバナンス」を高説してきたコンサルティング会社が、自らの不祥事に対しては貝のように口を閉ざし、説明責任を放棄している。この対応は、同社に自浄作用もガバナンスも存在しないことを自ら証明しているようなものだ。

 

「バレない」と高を括った業界の驕りか?

こうした「助成金の実質負担ゼロ」を謳うスキームは、実は数年前からベンチャー界隈の間で横行していた。実際にエッグフォワードの他にも、このスキームを手掛けることで有名な中小企業支援を手掛ける補助金・助成金支援の会社はあるし、実際に、ここ2年ほど、さまざまな会社から同種のスキームでの営業メールが頻繁に送られてきていたという覚えがある人も多いだろう。

ベンチャー企業はコロナ禍の雇用調整助成金バブルが落ち着き、次なるターゲットとして狙われたのが、国が予算を注ぎ込む「人への投資」分野だったのだ。

「E社だけでなく、協力会社を一枚噛ませることで金の流れを追いにくくする」「研修という形のないサービスなら適正価格がごまかしやすい」。そんな抜け穴をついた今回のスキームだが、労働局の調査の目は欺けなかった。

 

また、就職口コミサイトには半年も前から「不正スキームへの関与が道徳に反する」という元社員の悲痛な告発が書き込まれており、内部でもこの異常なビジネスモデルに対する拒否反応は起きていたようだ。

「人への投資」を掲げながら、実際に行われていたのは「税金のくすね取り」。公表された19.8億円という数字は、氷山の一角に過ぎないのかもしれない。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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