
連休最終日の足立区・梅島で、展示車が歩道へ突っ込み11人が死傷する重大事故が起きた。鍵は車内に残されたまま盗まれ、警察追跡後に暴走した可能性も浮上している。生活道路で何が起きたのか、その現実を追った。
連休最終日の穏やかな午後が、一台の車に裂かれた
24日正午すぎ。
足立区梅島の国道4号は、人の足音と店のBGMが混ざる“いつもの休日”だった。
家具店の袋を抱えた家族、高齢者の押し車、映画館帰りの若者が、それぞれの小さな目的を胸に歩道を進んでいた。
だが、横断歩道の信号が赤に変わった次の瞬間、白い車がその光を突き破るように突っ込んだ。
空気は一転し、昼下がりの街は悲鳴の渦へと沈んだ。
白い乗用車は横断歩道の女性をはね、そのまま歩道へ吸い込まれた
横断歩道を渡っていた20代女性が跳ね上げられ、周囲から悲鳴が走った。
しかし車はブレーキを踏むことなく、そのまま歩道へ。
スーパー袋が宙を舞い、自転車が倒れ、金属の軋む音が響き、歩道は逃げ道がないまま“暴走の通り道”へ変わった。
朝日新聞デジタルによると、歩道を走り抜けた距離は100メートル近い。
80代の男性が命を落とし、女性は意識不明の重体。
その数分前まで、何の変哲もない日用品の袋や買い物メモがあった場所が、一転して惨劇の現場となった。
多重事故のあと、男は無言で逃げた
歩道から車道へ戻った車は前方のトラックに突っ込んだ。
複数車両が巻き込まれ、街の音が混乱へ飲み込まれていく。
やがて車が止まると、運転席のドアが開いた。
30代後半ほどの男が姿を現し、うつむいたまま歩道脇へ早足で去っていく。
「逃げるのかよ!」
現場にいた男性が怒鳴ったが、男は振り返らない。
後に日テレNEWS NNNは、この男が足立区在住の37歳と報じた。
警視庁は自宅で身柄を確保し、事情聴取を始めている。
“鍵を車内に置いたまま”の展示車 業界の盲点が露呈した
暴走車は、近くの中古車販売店に展示されていた“認定中古車”だった。
事故の2時間前、従業員から「展示車を乗って行かれた」という110番通報があったという。
注目すべきは、展示車の鍵が車内に置かれていたことだ。
中古車販売店では、
「来店者がすぐ車内を見られるように」
「スタッフの手間を減らすため」
という理由から、鍵を車内に置いたまま展示する慣行が根強い。
だが、その“利便性の文化”は、
車を敷地外に持ち出されれば即アウト、という防犯の弱点でもある。
販売店関係者は口を揃えて
「展示車の鍵管理はどこも似たようなもの」
と話すが、今回の事件はその慣行が引き金となった。
男は「盗んでいない。試乗しようとしただけ」と供述しているが、歩道暴走と逃走という行動は、その言葉をかき消している。
足立区梅島──生活の密度が高い“人と車の交差点”で起きた悲劇
事故現場周辺は、足立区の中でも生活動線が濃く重なる場所だ。
家具店、ホームセンター、スーパー、飲食店、映画館。
日常の動きが一本の大通りへ吸い込まれるように集まり、人通りは常に多い。
ベビーカー、高齢者、自転車の学生、配送トラック。
歩道は広くとも、“逃げ込めるスペース”は少ない。
だからこそ、一度車が乗り上げれば被害が膨らみやすい構造になっている。
街の特性そのものが、今回の被害拡大の要因になった。
追跡開始は正しかったのか──避けて通れない“警察の判断”
朝日新聞デジタルによると、販売店から「展示車が乗って行かれた」と通報があったのは事故の約2時間前。
その後、西新井署のパトカーが白い車を確認し、追跡を始めた直後に今回の事故が起きたとされる。
ここで浮かぶのがもう一つの疑問だ。
「追跡は適切だったのか?」
生活道路での追跡は、場合によっては“事故の誘発”につながる。
過去にも全国で追跡中の事故が問題になってきた歴史がある。
もちろん、盗難車の追跡は警察の重要な任務だ。
だが、人通りが多い梅島・西新井の国道4号で、
暴走しやすい車を追うリスクと、捕まえる必要性の線引きは極めて難しい判断になる。
警視庁は追跡の適否について「調査中」としているが、
ここは再発防止策の核心となるはずだ。
SNSに溢れた“怒りと恐怖と足立のリアル”
SNSでは
「鍵が車内は危なすぎる」
「足立区のあの道で暴走はシャレにならない」
「連休最後に家族で通った時間帯だった。鳥肌立った」
という投稿が相次いだ。
特に地元住民の声には、
“日常が簡単に壊される現実”への恐怖が滲んでいる。
また同じことが起きないために──問われるのは街と業界の構造そのもの
今回の事件は、ただの“暴走事故”では片付かない。
展示車の鍵管理という業界の慣行、
商業施設が密集する生活道路の構造、
追跡判断の難しさ。
これら複数の“隙”が重なり、最悪の時間帯に最悪の場所で起きた。
連休最終日の穏やかな空気を裂いたこの惨劇を、
二度と同じ道で繰り返さないために、
街も販売店も警察も、そして私たち自身も、
どこに危険が潜んでいるのか、今一度見直す必要がある。



