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PayPay銀行が「保証付き融資」をオンライン完結へ 信金信組の存在意義、中小企業金融は変わるのか?

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金融DXが中小企業金融を変える日

PayPay銀行、信用保証協会

PayPay銀行が10月1日から、東京信用保証協会と提携し「保証付き融資」をオンライン完結で提供する新サービスを始めた。申込から審査、融資実行までをすべて非対面で完了できる仕組みで、ネット銀行による保証協会付き融資の取り扱いは国内初となる。

対象は東京都内の法人・個人事業主。最短2日で事前審査を終え、最大8,000万円まで無担保で融資を受けられる。金利は年1.4〜3.4%で、最長15年の長期借入にも対応する。PayPay銀行は「金融サービスを空気のように身近に」という理念を掲げ、利便性とスピードを両立させた新たな中小企業支援モデルを打ち出した。

 

24時間365日、来店不要の“オンライン融資”

これまで信用保証協会付きの融資は、地域の銀行や信用金庫での対面手続きが主流だった。申込者は書類を持参して店舗を訪れ、複数回の面談を経て融資が実行されるという煩雑な流れが当たり前だった。

PayPay銀行の新サービスでは、こうした物理的なハードルをすべて取り払った。オンライン上で必要書類をアップロードし、審査も電子的に進行する。AIを活用した事前審査が導入され、最短2日で可否が判明するという。

経営者が深夜や休日でも申込み可能な点は、忙しい中小企業にとって大きな魅力だ。実店舗を持たないネット銀行だからこそ、時間と場所に縛られない“デジタル資金繰り”の新時代を切り開いた格好だ。

 

“無担保・無保証人”が広げる中小企業のチャンス

信用保証協会付き融資の最大の特徴は、信用保証協会が保証人となることで、創業間もない企業でも資金を調達しやすくなる点にある。PayPay銀行の法人口座開設者のうち約4割は創業3年以内の企業であり、こうしたスタートアップや個人事業主にとっては、金融機関の新たな選択肢が生まれたことになる。

さらに、東京都の制度融資を併用すれば金利の優遇措置を受けられる場合もあり、資金繰り改善や財務基盤の安定化に向けた支援として注目されている。

同銀行は今回、クレジットエンジン株式会社のプラットフォーム「CE Loan 保証協会」を採用。信用保証協会とのAPI連携により、申込から審査結果通知までのすべてを電子化した。これにより、従来数週間を要していた審査プロセスを大幅に短縮することが可能になった。

 

信金・信組の存在意義が問われる

この動きは、地域金融機関に根付いてきたビジネスモデルに根本的な問いを投げかけるだろう。

信用金庫や信用組合は、これまで「保証協会付き融資」を中心に中小企業の資金供給を担ってきた。保証協会が8〜9割を保証する仕組みの下で、担当者による面談と「地域密着」の関係性を軸に融資を行う構造だ。

だが、PayPay銀行のように24時間365日、オンラインで完結する仕組みが登場すれば、従来の“人に会う金融”の優位性は急速に薄れる。ネット銀行は店舗や人件費といった固定コストを最小化でき、AI審査によってスピーディーに判断するため、実務負担やコスト面で圧倒的に有利だ。

こうした動きに対し、金融業界内では「地域金融の競争構造が変わる」との見方も出ている。YouTubeチャンネル「中小企業の財務チャンネル」の森尾氏は次のように指摘する。

「保証協会が承認すれば融資を通すという信用金庫の慣行は、デジタル化の波で陳腐化しつつある。AIが保証協会の審査を自動連携する時代になれば、もはや“人間関係の金融”は差別化要素ではなくなる。」

地域金融機関がこれまで積み上げてきた「人情」と「信頼」は、数字で評価される“信用スコア”の時代にどう向き合うのか。PayPay銀行の登場は、その実力を冷静に測る試金石となる。

 

実際に、ある東京の信用金庫職員は、複雑な表情を浮かべながらこう語る。

「正直、焦りはあります。地域を回って汗をかく営業スタイルに価値があると信じてきた。でも、今の若い経営者は“来店不要”を当たり前に感じている。効率性で太刀打ちできないのは分かっていても、地域の人との信頼関係だけで勝負する時代じゃなくなってきた気がします。」

別の信用組合幹部も、店舗維持コストの重さを実感するという。

「うちのような小規模信金では、支店1つ維持するだけで年間数千万円の固定費がかかります。ネット銀行はそこを全部カットして手数料を下げてくる。融資審査をオンライン化できない地方信金は、5年以内に淘汰の波に直面する可能性がある。」

 

経営者たちが感じる“自由”と“孤独”

一方で、中小企業の側からは好意的な声が上がる。都内でIT関連事業を営む創業4年目の経営者は、今回のサービス開始を歓迎する。

「資金繰りの話って、どうしても時間を取られる。PayPay銀行の仕組みなら、夜中でも申請できるし、数字さえ整っていれば判断してくれる。こちらの“人柄”よりも“事業性”を見てくれる感覚があって、正直ホッとします。」

ただ、その一方で、「相談できる相手がいなくなるのは少し心細い」とも漏らす。「昔は信金の担当者が事務所に来て、愚痴半分で相談していた。AIは速いけど、励ましてはくれない。便利さの裏に、人とのつながりが薄れていく怖さも感じます。」

デジタル化が進む中で、経営者たちは“自由”と“孤独”のはざまで揺れている。スピードと効率を求めるほど、地域金融の“温度”が遠ざかっていく現実がある。

 

政策金融・制度融資との接続点

今回の新サービスは、単なるネット銀行の利便性競争ではない。国や自治体が進める中小企業支援のデジタル化政策と、制度融資の構造的転換を象徴する動きでもある。

経済産業省やデジタル庁は、行政データと金融データをAPI連携させる「金融EDI構想」を進めており、融資手続きの電子化・自動化が本格化している。PayPay銀行が導入した「CE Loan 保証協会」は、信用保証協会電子受付システムとAPIで直接接続し、保証申込から結果通知までを自動化。これは、政府が掲げる“行政×民間×金融”の連携モデルを実際に具現化した初のケースといえる。

また、東京都の制度融資を活用すれば、保証料や金利負担の軽減といった優遇措置も受けられる。つまり、この仕組みは「デジタル化された政策金融の先行モデル」でもあるのだ。

行政・金融・保証のデータがつながることで、手続きの透明性が高まり、融資のスピードと公平性が両立する。中小企業支援の現場では、もはや“紙と印鑑の時代”が終わりを告げようとしている。

 

新しい金融のかたちへ

PayPay銀行は「まずは東京から全国へ」としており、今後、他の都道府県の信用保証協会との提携拡大も見据える。非対面・無店舗のネット銀行が中小企業金融の中核プレイヤーとして存在感を増していくなかで、融資の「時間」「距離」「手間」をなくすデジタル金融の波は、もはや不可逆だ。

経営者にとっては、資金調達のスピードが生存を左右する時代。PayPay銀行の一手は、単なる新サービスにとどまらず、「中小企業金融の地殻変動」を告げる一歩といえる。

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ライター:

金融機関と不動産会社での勤務経験を経て2014年より金融関係や不動産関係を中心としたフリーライターとして活動。金融関係をはじめ不動産やビジネスのジャンルを中心に執筆しています。

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