ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

日本一危険な動物園「ノースサファリサッポロ」20年の歴史に幕 違法建築問題と動物300匹のこれから

コラム&ニュース ニュース
リンクをコピー
日本一危険な動物園「ノースサファリサッポロ」20年の歴史に幕 違法建築問題と動物300匹のこれから
ノースサファリサッポロ公式HP より

札幌市南区の「ノースサファリサッポロ」が9月30日、20年の歴史を閉じた。違法建築問題の末に閉園を余儀なくされ、園内にはなお300匹を超える動物が残されている。最後の一日を見届けた人々の声とともに、これからの課題を追う。

 

最終日を迎えたノースサファリサッポロ 残されたライオンやクマ

秋晴れの空の下、朝から園のゲートには人の列ができていた。親に手を引かれた子どもが「最後にウサギに会いたい」とつぶやく。檻の奥ではライオンがゆっくりと体を揺らし、来園者の視線を静かに受け止めていた。

2005年の開園以来、「日本一危険な動物園」として話題を集め、ライオンへの餌やりや爬虫類とのふれあいといった体験で知られた。しかし、その裏で無許可建築が積み重なり、行政の指導に応じないまま年月が過ぎた。閉園を迎えた今も、319匹の動物が檻や小屋に取り残されている。

なぜ閉園に? 違法建築と市街化調整区域の問題

閉園の大きな理由となったのは、今年2月に明るみに出た156棟の違法建築だ。運営会社サクセス観光は2029年までに撤去を約束したが、9月の時点で118棟が残り、作業は思うように進んでいない。

園の敷地があるのは「市街化調整区域」。これは市街地の無秩序な拡大を防ぐため、住宅や商業施設など新たな建築を原則認めないエリアである。本来なら動物園の建設も難しく、施設自体が長年にわたって法規制と矛盾する状態にあった。今回の閉園は、その矛盾がついに解消を迫られた結果だった。

閉園で浮かび上がった課題 動物の移転と雇用への影響

 

閉園は違法建築の是正という意味では前進だが、その裏で新たな問題が噴き出している。ライオンやクマといった「特定動物」の受け入れ先は限られており、移転のめどは立たない。従業員の雇用も整理が避けられず、地域にとっては観光資源と雇用の両方を失うことになる。

「動物たちに罪はない」。最終日に来園した家族連れが残した言葉は、閉園の象徴ともいえる。課題は「建物の撤去」だけではなく、「生き物の命」をどう守るかに移っている。

過去の動物園閉園から見る 受け入れ先不足の現実

過去にも同じような問題は繰り返されてきた。2004年に閉園した定山渓クマ牧場では、ヒグマ約35頭が取り残され、受け入れ先探しに難航した。2018年に閉館した犬吠埼マリンパークでは、イルカの「ハニー」が孤独に泳ぎ続け、社会問題化した。いずれも対応の遅れが批判を招いた。

海外でも、1986年に閉園した英国のクナレスバラ動物園ではライオンやクマが安楽死された一方、2022年のブリストル動物園は系列施設へ計画的に移転し、混乱を最小限に抑えた。結末を分けたのは、準備と計画性の有無である。ノースサファリサッポロの未来も、過去の教訓に学べるかどうかにかかっている。

動物福祉と社会の責任

今回の閉園は、動物園の存在意義そのものを問い直す出来事でもある。娯楽性を重視した展示は来園者を惹きつけたが、その一方で動物福祉の観点からは疑問が投げかけられてきた。特定動物の長期飼育や、十分な環境が整わない中での展示は、国際的には次第に見直されつつある。

欧州では「教育・保全」を重視する動物園への転換が進み、娯楽主体の施設は淘汰されつつある。日本でも動物福祉に配慮した展示や国際的な連携が求められているが、ノースサファリサッポロの閉園はその遅れを浮き彫りにした。

残された動物の受け入れ先を確保することは緊急の課題だが、その先にある問いはより大きい。「動物園は誰のために存在するのか。人の娯楽か、それとも動物と自然を守る拠点か」。閉園は社会全体にその答えを迫っている。

ノースサファリ閉園で揺れる札幌観光と地域経済

 

同園は札幌市南区の観光の一角を担い、年間数十万人を呼び込んできた。周辺の飲食店や宿泊施設にとっても来園者は重要な顧客であり、その経済効果は小さくない。閉園は地域観光の魅力をそぐだけでなく、従業員の雇用にも直結する。

観光資源を失った地域がどう再生するか。新たな観光拠点の開発や既存資源の磨き上げが必要になるだろう。ノースサファリ閉園の余波は、地域経済の構造にまで波及していく。

動物たちの新しい居場所と違法建築撤去 これからのシナリオ

札幌市は運営会社に対し、10月末までに動物の移動計画を提出するよう求めている。だが、候補地とされる土地もまた市街化調整区域にあり、建築許可は簡単には下りない。違法建築の撤去と動物の保全という二重の課題をどう両立させるかは、容易には答えが出ないだろう。

閉園当日の夕暮れ、ゲートを出ていく子どもが小さく「バイバイ」とつぶやいた。動物たちの瞳はなお檻の奥でこちらを見つめている。未来へ歩みを進めるために、行政と事業者が責任を果たし、社会全体が動物福祉と法令遵守をどう両立させるか。その答えが問われている。

Tags

ライター:

新聞社・雑誌の記者および編集者を経て現在は現在はフリーライターとして、多方面で活動を展開。 新聞社で培った経験をもとに、時事的な記事執筆を得意とし、多様なテーマを深く掘り下げることを得意とする。

関連記事

タグ

To Top