
家電量販大手ヨドバシカメラが、公正取引委員会から下請法違反で勧告を受ける見通しとなった。背景には業界に根強く残る「不当減額」の慣習がある。
PB委託業者への不当減額が発覚
家電量販大手のヨドバシカメラ(本社・東京)が、プライベートブランド(PB)商品の製造を委託する下請け業者に対して支払い代金を不当に減額していたことが明らかになった。公正取引委員会は、下請代金支払遅延等防止法(下請法)に違反すると認定し、再発防止を求めて勧告を行う方針だ。関係者への取材によれば、減額額は総額で1000万円を超えるとみられる。
この問題は、2025年7月に中小企業庁が「措置請求」を行ったことで表面化した。調査を担った同庁によると、ヨドバシカメラはPB家電製品の製造を委託した数社の業者に対し、当初決定していた納入代金を一方的に引き下げたほか、顧客から依頼された修理費用を下請けに再委託した際にも減額していたという。
下請法が禁じる「合意後の減額」
下請法では、発注者が下請け業者に支払う代金は、一度決定した後に減額することを原則禁じている。これは、力関係で優位に立つ大企業が下請けに不利な契約を押しつけることを防ぐためだ。不良品や瑕疵など業者側に責任がある場合を除き、たとえ双方が合意していても減額は違法となる。
今回のケースでは、リベート(販売奨励金)などの名目での減額が行われていたとみられる。家電業界ではこうした慣習が長年残っており、「形式上の合意があっても違法」という認識が一部企業で不足していた可能性がある。
利益率を重視するPB商品
ヨドバシカメラをはじめとする家電量販店各社は、近年PB商品の強化に力を入れている。PB製品は一般メーカー品よりも利益率が高いため、各社は冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなど幅広いジャンルで自社ブランドを展開している。しかしその裏では、製造を担う中小企業の立場が弱く、コスト削減のしわ寄せが集中している現実がある。今回の不当減額も、その構造的な課題を浮き彫りにした。
ヨドバシカメラの対応
ヨドバシカメラは1960年設立。全国に24店舗を展開し、インターネット通販も含めた売上高は2024年3月期で7560億円に達している。家電量販業界の中でも有力なプレーヤーだが、今回の勧告により企業イメージへの影響は避けられない。
消費者への影響は?
今回の不当減額問題は、一見すると業者と企業の間の取引にすぎないように思える。しかし、消費者にとっても無関係ではない。下請け業者が不当な負担を強いられることで、製品の品質維持や開発力に悪影響が出る恐れがある。結果として、PB商品の品質低下や供給不安につながる可能性があるのだ。
また、業界全体でこうした慣習が根強く残る限り、健全な市場競争を阻害し、消費者がより良い製品を適正価格で手にする機会を奪うことにもなりかねない。
今後の展望
家電量販業界は価格競争が激しく、利益を確保するためPB商品に頼らざるを得ない構造がある。その裏で、コストを下請けに転嫁する動きが常態化してきた。今回の勧告は、そうした業界慣行に公取委がメスを入れた格好だ。
公正取引委員会と中小企業庁は、家電量販業界に対する監視を強める方針。特に、PB製品の拡大を背景に取引構造が複雑化する中で、下請け業者の保護をいかに実効性あるものにするかが問われている。
ヨドバシカメラの勧告は、消費者に直接的な影響を与える問題ではないかもしれない。しかし、その背景には「安さ」を追求するあまりに犠牲を強いられる下請け業者の実態があり、結果として消費者に跳ね返るリスクがある。
今回の事案をきっかけに、家電業界全体が透明性の高い取引慣行を確立できるのかが注目される。消費者としても、企業が提供する「安さ」や「便利さ」がどのように成り立っているのかを見極める視点が求められている。