
深刻な感染症である破傷風(はしょうふう)のワクチンが、現在出荷停止となっている。大手製造元による突如の供給停止により、全国の医療機関では在庫不足が表面化している。暑さ厳しい今夏、屋外での活動が増える中、専門医は「とにかくけがをしないこと」が最大の予防策だと呼びかけている。
土中の菌が体内へ 破傷風とはどんな病気か
破傷風は、**「破傷風菌(Clostridium tetani)」**が主に傷口を通じて体内に侵入することで発症する感染症である。この菌は土壌、砂、動物の糞などに広く存在し、空気のない環境で毒素を出す。
発症すると、強直性けいれん(筋肉の硬直)や嚥下困難、呼吸障害などの神経症状がみられ、重症化すれば死に至る可能性もある。治療には抗毒素や抗菌薬、集中治療が必要だが、最も有効なのは発症を防ぐワクチン接種である。
ワクチン供給に突然の異変 「デンカ」が出荷停止
今月上旬、国内シェアの多くを担う製造元・デンカが、破傷風ワクチン「破傷風トキソイド」の出荷を停止した。理由は「製造工程の適格性に疑義が生じた」とのことで、安全性の確保ができるまで出荷を控えるとしている。
医療現場では既に影響が出ており、名鉄病院予防接種センターの菊池均医師は「現在の在庫は約2か月分。このまま供給が止まれば不足は避けられない」と危機感を示している。
今、私たちが注意すべきこと
【1】けがの予防が最も重要
ワクチンが潤沢にある状況であれば、破傷風は予防可能な病気だが、現状ではワクチンに頼る予防が困難となる。そのため、次のような場面では特に注意が求められる。
破傷風のリスクが高いけがの例
シーン | 危険要因 |
---|---|
農作業中 | 鎌やクワなどでの裂傷・刺創 |
解体現場 | 古釘・さびた金属片などによるけが |
海辺・川辺 | 岩場や貝殻、ガラス片での切創 |
交通事故 | 路面との接触による汚れた創傷 |
転倒 | 熱中症による転倒でできた外傷 |
動物に咬まれる | 咬傷部位からの菌侵入 |
【2】けがをした場合の初期対応
ワクチン接種が難しい今、傷口の適切な初期対応が命を守る鍵となる。
けがをしたときの応急処置
- 傷を流水でしっかり洗浄し、汚れを取り除く(石けんの使用も有効)
- 異物が残っていないか確認する(深い傷では医療機関を受診)
- 出血している場合は清潔なガーゼで圧迫止血
- 速やかに医療機関を受診し、破傷風のリスクを相談する
特に、土やさびた金属が関係するようなけがをした場合は、外見上軽微でも必ず医師に相談することが望ましい。
ワクチン再開は未定 国の対応にも注目
製造元のデンカは、メ~テレの取材に対し「再開時期は未定」としたうえで、「1日でも早い出荷再開に努める」としている。今後、厚生労働省が供給再開までの対応策をどう講じるかも焦点となる。
現在、年間の破傷風感染者は全国で100人前後とされるが、ワクチンの普及に支えられた低水準であり、この供給停止が長引けば、再び感染リスクが増すことも懸念される。
まとめ:破傷風から身を守る3か条
- 屋外活動時は靴・手袋などで肌を守る
- 転倒や切創後はすぐに洗浄と消毒を
- けがの程度にかかわらず、医療機関に相談を