
米アクティビストファンドのエリオットが、住友不動産に対して異例の公開書簡を発表。株主還元とガバナンスの抜本的な改善を求め、総会では経営陣に反対票を投じる意向を示した。
エリオットが住友不動産に公開書簡を提出
米アクティビストファンドのエリオット・インベストメント・マネジメント(以下「エリオット」)は2025年6月9日、住友不動産に対して異例の公開書簡を発表し、株主還元の強化や企業統治の改善を求める姿勢を鮮明にした。この動きは、同社が28日に予定する株主総会で経営陣の再任に反対する方針を示す可能性もあるとして注目を集めている。
ブルームバーグによると、住友不動産の広報担当者は「エリオットからは、直近のガバナンス強化や株主還元施策の方向性について評価を受けており、今後も建設的な議論を進める」とコメントしている。
書簡の主要要求事項
エリオットはこの書簡で以下の4点を中心に住友不動産に対応を求めた。
- 株主還元強化…同業平均の50%以上へ総還元性向を即時引き上げ。
- 政策保有株式の縮減…大成建設など建設会社4社との持ち合い株を含め、資本効率化を図る。
- ROE目標の設定…自己資本利益率(ROE)を10%以上に設定し、明確な達成計画を提示。
- ガバナンス改善…独立社外取締役の増員、指名・報酬委員会の設置等を通じた構造改革。
また、「株価は現在の水準を40%上回る8,000円になる」との見解を示し、不動産資産の評価やPNAV(実質純資産価値)倍率などに基づく根拠を提示している。
参照:Sumitomo Realty(ELLIOTT)
背景:株式市場による低評価と現状
エリオットによると、住友不動産の株価は実質純資産価値の約半分で取引されており、TOPIX100構成銘柄の中でもPNAV倍率やガバナンス指標が最低水準だという。さらに、取締役会承認率も2017年95%から2023年には77%へと低下し、ISSやグラス・ルイスなど外部助言機関が会長への支持取りやめを勧告している点も強調されている。これらは株主意識調査等を通じて裏付けられた。
背景には、政策保有株式の比率が純資産の26%と極めて高い現状や、株主還元率17%に留まる低収益性の構造があり、エリオットは経営陣に抜本的な構造改革を求めている。
エリオット・インベストメント・マネジメントとは?
1977年にポール・シンガー氏が設立したエリオットは、約727億ドルを運用するグローバルなヘッジファンド。公共年金や大学基金、高純益個人資産などを顧客とし、「不良債権」「ディストレスト証券」、さらに「アクティビスト戦略」に強みを持つ。過去には三井不動産(2024年)やソフトバンク(2020年)、サムスン(2016年)など大手企業に対して経営改革を求め、その成果は株価上昇やガバナンス強化によって実証されている。
エリオットの主な介入実績
- 三井不動産(2024年):自社株買いとオリエンタルランド株売却要求により株価上昇
- ソフトバンク(2020年):自社株買い拡大とガバナンス改善を提唱、株価が倍以上に上昇
- Samsung Electronics(2016年):配当・社外取締役導入など多数の改革を実現
これらの成功事例により、エリオットは「アクティビストの代名詞」として認知されており、介入先企業に対して株主価値の解放を促す力を持つ。
今後の展望 2025年6月28日株主総会が鍵
住友不動産はエリオットの提言について「建設的な議論を進める」との姿勢を示しているようだ。今後は書簡内容への対応を注視するとともに、AGM(株主総会)において経営陣に対する反対票がどの程度集まるかが焦点となる。
まとめ
エリオット・インベストメント・マネジメントによる住友不動産への書簡は、日本企業に対して株主還元やガバナンス改革を迫る代表的事例である。総還元性向50%以上やROE目標10%など具体策を掲げることで、同社株価の潜在的上昇余地を示唆。2025年6月28日の株主総会は、経営陣の姿勢と株主の意向が明確に示される場となる。投資家は今後の経営対応と投票動向を注視すべきだろう。