「アナ雪」を超える裏切り!現実のハンス王子はもっとヤバかった

“裏切り王子”は映画だけの話ではなかった。名古屋・栄のホストクラブ「Club Dore(クラブ ドーレ)」で“ハンス王子”を名乗っていたのは、フィリピン国籍のナバ・ハンス・フィリップ容疑者(21)。甘いマスクと巧みな話術で女性客の心を掴んでいたが、その素顔は、匿名・流動型犯罪グループ「ブラックアウト」の一員だった。
大阪府警捜査4課は6月4日、ナバ容疑者が勤務していたホストクラブに家宅捜索を実施。容疑は、4月に発生した大阪・東大阪市での凶器準備集合事件に関与した疑いによるものだ。ナバ容疑者が事件前後に店舗に出入りしていた痕跡があり、警察はホスト業で得た収益が「ブラックアウト」に流れていた可能性も視野に入れて調査を進めている。
東大阪で“武装突入” 高校生らも実行犯に
事件の発端は、今年4月20日夜。東大阪市のマンション共用部に、ナイフや特殊警棒を持った十数人の男たちが侵入。防犯カメラには、顔を隠した集団が建物に入っていく様子が映っていた。このマンションには、ブラックアウトと敵対関係にある大阪の別トクリュウの構成員が出入りしていたという。
大阪府警は、フィリピン国籍のタキワキ・マサキ・ラサイ容疑者(21)を中心とするグループ計7人を逮捕。内訳には16~17歳の男子高校生2人と、18歳の無職少年も含まれていた。少年たちが凶器を手に“抗争”に動員される実態が明らかとなった。
トクリュウ──匿名と流動の時代に生まれた「顔なき半グレ」
ブラックアウトは、「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」と呼ばれる新種の犯罪ネットワークである。暴力団のような明確な構成や看板を持たず、メンバーは案件ごとにSNSや口伝で集まり、報酬を受け取って解散する。
匿名性・即応性・撤退の早さが特徴で、実行犯たちはお互いの素性すら知らないこともある。
背景には、暴対法による従来型暴力団の弱体化がある。暴力団の「看板」なしでも稼げる仕組みを模索する中で、流動的なトクリュウが各地で生まれ、若者を吸収していった。ブラックアウトもその一つであり、拠点は愛知県名古屋市。ナバ容疑者をはじめ、ホストや外国籍の若者が資金調達と実働部隊の両面を担っていた。
ホストと反社、表と裏をつなぐ“融資なきフロント”構造
ナバ容疑者のように、ホストとして名を売りながら裏で犯罪組織に関与する若者は、決して珍しくない。ホスト業界は、現金主義・即日支払いという構造上、古くから“反社資金の集金所”とされてきた。
高額な売上を叩き出すため、ホストたちは自腹で売上を作る「自爆営業」に走ることがある。その資金源として、裏社会の“融資”が入り込む。こうしてホスト業界の一部は、知らぬ間に反社会勢力の資金源となっていく。
さらに、ホストとしての“顔”は、顧客の信頼と現金を引き寄せる道具でもある。ナバ容疑者が“ハンス王子”と名乗り、ファンタジーを売っていた一方で、その収益が凶器の調達費や仲間への報酬に流れていた可能性があるという。
SNSでは「アナ雪超えた」“極悪ハンス王子”が話題に
SNS上では早くも「アナ雪のハンス王子よりタチ悪い」「ホストが裏社会の資金源って、時代錯誤すぎる」といった反応が拡散。
一方で、「ホストクラブと反社の結びつきをもっと調べるべき」といった社会的問題提起の声もある。
特に若年層の関与が顕著な今回の事件は、“イケメンホスト”のイメージの裏側にある、構造的な暴力と搾取の実態を浮かび上がらせている。
“顔の見えない暴力”が、街に潜むという現実
トクリュウの最大の脅威は、正体がつかめないことにある。暴力団のように「○○組」という名乗りもなければ、事務所もない。
その代わり、彼らはTikTokやXなどSNSを通じて“仲間”を見つけ、ターゲットを定め、金と暴力を動かしていく。
ホスト、イベントスタッフ、インフルエンサー──社会の“表の顔”を使いながら、裏で資金や人を動かす。今回の“ハンス王子”もまた、その一人に過ぎない。
警察が追う「金と構造」家宅捜索の本当の意味
大阪府警は、Club Doreの帳簿、送金記録、スマートフォンの通話履歴、LINEトークなどを中心に、金の流れと組織構造の特定を進めている。
特に注目されるのは、「ホストの売上がどのようにブラックアウトの活動費になっていたか」という点で、ホストクラブが“フロント機能”を果たしていた疑いが強まっている。
警察関係者は「今回の摘発は氷山の一角」と語り、今後は組織犯罪処罰法の適用も視野に捜査を拡大する構えだ。
終わらぬ物語 現代の“ハンス王子”たちが浮かび上がらせる社会の影
「氷の国」の王子が裏切るのはフィクションの中だけではない。
SNSと現金、匿名と暴力──その交差点で、ホストクラブは笑顔を売り、闇は静かに膨らんでいく。
栄の夜に現れた“極悪ハンス王子”は、犯罪の象徴ではない。社会が作り出した空白の象徴である。