
日本郵便が配達員への点呼を適切に行っていなかった問題で、国土交通省は約2500台の運送事業許可を取り消す方針を固めた。行政処分としては最も重く、物流への影響は避けられない見通しだ。
点呼不備が全国で常態化
日本郵便が全国の郵便局で配達員に対する点呼を適切に実施していなかった問題で、国土交通省は同社が保有する約2500台のトラックやワンボックス車に対し、貨物自動車運送事業法に基づく事業許可を取り消す方針を固めた。許可取り消しは月内にも行われる見通しで、処分後5年間は再取得ができないという。
点呼業務とは、運転前後に健康状態や飲酒の有無、疲労の程度などを確認するもので、事業者には実施が義務付けられている。しかし、日本郵便では一部の郵便局で数年にわたり点呼が行われていなかったほか、実施していないにもかかわらず虚偽の記録を作成していた事例も確認された。
全国3188局中75%で不備確認
問題の発端は、2024年1月に兵庫県内の郵便局で点呼の不実施が発覚したことだった。これを受け、日本郵便は全国3188の郵便局を対象に調査を実施。その結果、2391局、全体の約75%で点呼に不備があったことが判明し、のべ15万件に上る不適切な点呼が確認された。
これを受けて国交省は4月25日から特別監査を開始し、全国の郵便局への立ち入り検査を実施。関東運輸局では、違反点数が許可取り消し基準の81点を超えた局もあった。
対象は大型配送車両
許可取り消しの対象となるのは、日本郵便が保有する一般貨物自動車すべてで、拠点間の荷物輸送や大規模集荷などに用いられている。軽トラックや原付きバイクなどの届け出制車両は今回の処分対象外だが、今後、軽自動車に対する監査や使用停止処分が広がる可能性もある。
配達の現場では、これらの車両が担う役割は大きく、許可取り消しにより日本郵便は同業他社や子会社への業務委託を余儀なくされる見通しだ。
ゆうパックなど配送体制はどうなる?
日本郵便が保有する約2500台の一般貨物車両は、全国の拠点間輸送や一部の大口集荷など、物流インフラの中核を担っている。今回の許可取り消しにより、これらの車両が今後5年間使用できなくなることで、ゆうパックをはじめとした配送サービスへの影響は避けられないとみられる。
2023年度の実績によると、日本郵便は年間約10億個のゆうパックを取り扱っており、宅配市場で約20%のシェアを占めている。特に繁忙期には、トラックによる拠点間の迅速な輸送が欠かせない。事業許可の取り消しに伴い、日本郵便は子会社「日本郵便輸送」や協力会社への業務委託を増やす方針とされるが、すでに人手不足が深刻な業界においては、迅速な代替体制の構築が課題となる。
一部では、軽バンや軽トラックへの転換や、業務を子会社に移す案も浮上しているが、関係当局からは「処分逃れ」とみなされる可能性も指摘されており、慎重な対応が求められる。
消費者の生活に密接に関わる郵便・宅配サービスであるだけに、今後の日本郵便の対応と国土交通省の判断が注目されている。
飲酒運転も発覚、構造的問題に
さらに、日本郵便が社内で集計したところ、2025年4月だけで全国10支社において計20件の酒気帯び運転が発覚している。その一部は点呼を受けずに原付きバイクで出発したケースであり、社内管理体制の甘さが浮き彫りとなった。
千田哲也社長は記者会見で「個別の郵便局の問題ではなく、構造的な問題である」と述べ、再発防止に向けた徹底した改革の必要性を認めた。国交省と総務省も日本郵便に再発防止策の報告を求めており、今後の対応が注目される。
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