
― 労災増加の背景と企業に求められる備え ―
深刻化する人手不足を背景に、外国人労働者の数は全国で230万人を超え、過去最多となった。今後もその受け入れ拡大は不可避と見られるが、一方で労働災害(労災)に遭う外国人の数も急増している。厚生労働省のまとめによると、2024年に死傷した外国人労働者は全国で6244人に上り、13年連続で増加している。
言語と文化の壁が招く“見えない危険”
労災の発生率は、日本人を含む全体で1000人あたり2.3人に対し、外国人労働者では2.71人と高く、なかでも技能実習生(3.98人)、特定技能(3.91人)の水準が顕著である。背景にあるのは、指導や安全教育が言語・文化の違いによって正確に伝わっていないという構造的な問題だ。
ある食品加工工場で勤務中のベトナム人女性は、機械に手を挟んで指を骨折した。「危険だと思えば手は入れなかった」と語るが、職場では“危険を示す標識”や具体的な説明がなかったと振り返る。
介護施設など一部の先進事例では、ピクトグラムや母語表示を使った可視化、写真付きマニュアル、動作確認を伴う実地研修を導入し、事故防止に努めている。言葉を補い、文化の背景に寄り添う支援が求められている。
外国人を雇用する企業のメリットとデメリット
項目 | 内容 |
---|---|
メリット | ・人手不足の解消(特に3K職場) ・多文化的な視点の導入 ・職場の活性化、業務改善の刺激 |
デメリット | ・言語や文化の違いによる誤解や事故リスク ・教育や定着支援にコストと時間がかかる ・労務管理の専門知識が求められる |
企業が整備すべき就業ルール・規程一覧
区分 | 内容 |
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就業規則 | 外国人労働者向けに平易な日本語版または母語訳を作成。労災、休暇、退職時の説明を明記。 |
労働安全衛生規程 | 危険箇所のピクトグラム表示。イラスト付きマニュアルの整備。 |
雇用契約書 | 在留資格・就労可能範囲の確認。母語版の契約書または補助説明資料を準備。 |
人事評価制度 | 言語力や文化の違いを配慮した評価項目を設定。 |
教育訓練計画 | 入社時研修(安全衛生、緊急対応)と継続的OJTを組み合わせた体制。 |
相談体制 | 母語対応可能な相談員や通訳の配置。外部支援団体との連携。 |
社内ルールブック | 生活習慣・マナー・福利厚生などをわかりやすく説明した冊子を配布。 |
外国人労働者支援に取り組む企業の実例
実際に、外国人労働者の支援に積極的な企業も増えている。以下にその取り組みを一覧で示す。
企業名 | 業種 | 主な取り組み内容 |
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株式会社ベネッセスタイルケア | 介護業 | 特定技能制度を活用し、自社内で教育プログラムを構築。介護技能や接遇姿勢を体系的に指導。24名の外国人スタッフが現場で活躍。 |
セブン&アイ・ホールディングス | 小売業 | 3万7000人以上の外国人従業員に対し、業務研修・就業実績のデータ化による信用補完・語学やIT講座提供などの包括的支援を実施。 |
本多機工株式会社 | 製造業 | 外国人従業員を講師とする英語教室を社内開催。異文化理解の促進と、母国での起業支援により、信頼関係を深め将来のパートナー化も視野に。 |
カシオ計算機株式会社 | 製造業 | 多国籍スタッフを対象に、安全教育を含む研修制度を整備。文化的背景を配慮した職場環境の構築と、離職率低下を実現。 |
九州・山口地域の企業群 | 福祉・水産加工など | 技能実習・特定技能人材を対象に、日本語教育・生活支援を組み合わせた支援体制を構築。福祉施設や加工場などで実績。 |
“労働力”でなく“生活者”として支える
外国人労働者は、単なる労働力ではなく、地域社会で生活を営む生活者でもある。生活習慣や宗教的背景を尊重しながら職場づくりを進めることで、定着率も高まり、結果として企業の安定成長につながる。