
いわき信用組合で判明した不正融資総額は247億円超に上り、第三者委員会の報告書がその実態を明らかにした。長年にわたる組織的関与も浮き彫りとなった。
いわき信用組合で巨額不正融資 第三者委が詳細報告
2025年5月30日、いわき信用組合(本店・福島県いわき市)は、外部の有識者らで構成された第三者委員会の調査結果を公表した。報告書によれば、同組合では2004年から20年以上にわたり、不正な融資が常態化していた。
具体的には、他人の名義を無断で利用する「無断借名融資」が229億円、実態のない会社を経由させて資金を還流させる「迂回融資」が18億円。両者を合わせた総額は247億円にのぼる。件数にして1293件。報告書では、「金融機関として看過できない異常な事態」と厳しく指摘されている。
利用者の名義を勝手に使用 信頼を裏切る行為
報告書によると、無断借名融資では、実在する組合員の名前を使って勝手に融資口座を開設し、本人に知らせることなく巨額の融資を実行する手口が取られていた。融資金は特定の法人や個人に流れ、回収不能の状態となっているものも多い。
また、融資を表向きには第三者に実行したように装い、実際には別の借り手に資金を流す「迂回融資」も横行していた。こうした手法は、内部での複数人の関与がなければ成立し得ないとみられている。
第三者委員会は「理事長をはじめとした旧経営陣が主導した組織的な不正であった」と断定。不正の隠蔽も含め、長期間にわたって実行されていたことを重く受け止めている。
公的資金の注入後にも不正継続 使途不明金も
いわき信用組合は2012年、東日本大震災の影響を受けた経営立て直しのため、政府から200億円の公的資金の注入を受けていた。震災復興という大義のもとに投入された資金だったが、その後も不正は続けられていた。
報告書では、不正融資によって生じた損失を帳簿上で整理するため、公的資金注入を機に損失処理が開始された可能性に言及。具体的な流用の証拠は確認されていないが、経営再建資金が「事実上、融資の穴埋めに活用された」との見方が報じられている。
さらに、調査では8億~10億円規模の資金が行方不明となっていることも判明しており、報告書では「使途不明金」として扱われている。これらの資金の詳細な流れは解明されておらず、関係機関が注視している。
元職員のSNS告発で発覚 組合側は調査に消極的だった
不正の発端は、元職員がSNS上で実態を告発したことだった。2023年に投稿された内部告発により、預金者の名義を使った融資や、表面上は正常に見える取引の裏での資金流用などが暴かれた。
この告発を受け、報道各社が独自取材を開始。信用組合に取材を申し入れるも、当初は「個別の事案には答えられない」などとして回答を避けていたが、金融庁や東北財務局が動き出したことで、ようやく第三者委員会による調査が実施された。
報告書には、理事会や内部監査部門が機能不全に陥っていたことも明記されている。理事長ら経営幹部が情報を独占し、内部監査は形骸化していた。
経営陣7人が辞任へ 業務改善命令も
今回の報告書公表を受け、いわき信用組合は理事長を含む経営陣7人の辞任を発表。責任の所在を明確にし、再発防止と信頼回復に努めるとしている。一方、東北財務局は同日付で信用組合に対し、業務改善命令を発出。内部統制やガバナンスの強化、外部監査の充実、適切な情報開示など、具体的な改善策を講じるよう求めている。
今後の課題と信頼回復への道
いわき信用組合は、地域密着型の金融機関として、地域経済に重要な役割を果たしてきた。しかし、今回の不正融資問題により、その信頼は大きく揺らいでいる。組合は、再発防止策の徹底とガバナンスの強化を早急に図り、信頼回復に努める必要があるだろう。信用の再構築は容易ではないが、今後の対応が注視されることは間違いない。
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