
冬に多いはずの感染症が、初夏を迎えた今も収束の兆しを見せない。
福岡県内では、ノロウイルスやアデノウイルスなどによる「感染性胃腸炎」が季節外れに流行し続けており、小児科には嘔吐や下痢の症状を訴える子どもたちの受診が相次いでいる。加えて、伝染性紅斑(リンゴ病)の感染者数も警報レベルに達しており、ここ10年で最多の広がりを見せる。背景にはコロナ禍で一時的に徹底された感染対策が緩みつつある現状があり、専門家は「平時こそ、基本的な衛生習慣を見直してほしい」と警鐘を鳴らしている。
感染症の“冬の顔”が初夏にも流行 福岡で拡大続く
例年、冬季に流行のピークを迎える感染性胃腸炎やリンゴ病が、福岡県内で異例の季節外れの広がりを見せている。福岡市内の小児科では、5月下旬にもかかわらず嘔吐や下痢、発熱を訴える子どもの受診が続いており、医師らは注意を呼びかけている。
福岡市城南区の「せき小児科・アレルギー科クリニック」では、ノロウイルスやアデノウイルスなどが原因とされる感染性胃腸炎の患者が連日来院しているという。嘔吐や腹痛、発熱といった症状を呈するこのウイルス性疾患は、飛沫や接触を通じて人から人へと広がる。
関真人院長は「爆発的な流行ではないが、だらだらと続いている印象」と述べ、整腸剤の投与と水分補給による対処療法の重要性を強調した。
コロナ収束とともに再び拡大する「その他の感染症」
感染性胃腸炎が春以降も流行している背景について、関院長は「新型コロナの流行期には感染予防策が徹底されていたため、他の感染症が激減していた。今はその反動で多くの感染症が再び広がっている」と分析する。
一時はインフルエンザや溶連菌感染症の報告も相次いでおり、「感染症全体の流行がコロナ前に戻ったようだ」と警戒感を示した。
リンゴ病も“警報レベル”に 妊婦は特に注意
福岡県内では、別のウイルス性疾患である「伝染性紅斑(リンゴ病)」の流行も深刻化している。29日発表の最新統計によると、5月第4週の1週間で県内の感染者数は182人に達し、1医療機関あたり2.6人と「警報レベル」を2週連続で上回っている。
リンゴ病は頬が赤くなる症状からその名がつき、子どもが中心となる感染症だが、大人も感染する可能性がある。特に妊婦が感染すると、胎児への影響として流産や胎児水腫を引き起こすリスクがあり、県は一般的な感染対策の徹底を呼びかけている。
「手洗い」が最大の予防策 家庭内感染にも注意を
感染性胃腸炎、リンゴ病ともに特効薬は存在せず、治療は対症療法が中心となる。そのため、日常的な予防が極めて重要となる。
福岡県および医師は以下のような対策を推奨している。
- 外出後や食事前のこまめな手洗い
- 咳やくしゃみがある場合のマスク着用
- 感染者が出た家庭ではタオルや食器の共用を避ける
- 嘔吐物や排泄物の処理時には手袋やマスクを着用し、次亜塩素酸での消毒を徹底
関院長は「感染力が強く、家族内で次々に感染が広がるケースもある」とし、症状が現れた際は早めの受診と周囲への配慮が必要だと語った。
季節外れの感染症流行 “平時”だからこそ基本の衛生対策を
新型コロナウイルスの感染拡大を経て、マスクの常用や手指消毒といった対策が日常となった。しかし、ウイルスの種類が変わった今こそ、これら基本的な習慣の継続が感染拡大を防ぐ鍵となる。
関院長は「コロナ後も油断せず、感染症に対する意識を高く持ち続けてほしい」と呼びかけている。