
預金者に無断で開いた口座を利用した架空融資、実体のない企業への迂回融資、さらには横領の隠蔽まで。いわき信用組合で長年にわたって行われてきた不正の実態が明らかとなった。東北財務局は2025年5月29日、銀行法に基づく業務改善命令を発出。これを受けて、本多洋八理事長ら旧経営陣は辞任し、組織再建へと舵を切る。いったい何が起きていたのか。その全貌に迫る。
不正融資・横領・隠蔽 広がる不祥事の構図
東北財務局が業務改善命令を出すに至った背景には、いわき信用組合(福島県いわき市)で発覚した一連の不祥事がある。預金者の名義を無断で使用し、架空の口座を開設。その口座を通じて実体のない企業に融資を行い、不正に資金を流用していた。
金融庁や財務局への報告においても、経営陣は虚偽の説明を行い、事実を長期にわたって隠蔽。さらに、旧経営陣の一部は、横領を行った元職員を懲戒処分せず通常勤務させ、その後再び横領を許すという管理体制の緩みも明らかになった。
いわき信用組合は2024年11月、不適切な大口融資の存在を公表。その後の東北財務局による調査により、不正の規模が次々と浮き彫りになっていった。
経営管理体制の形骸化 “絶対的存在”だった前会長
財務局が注目したのは、いわき信用組合の内部統制が事実上機能していなかった点だ。歴代の役員は、不正融資を管理する役職を密かに引き継ぎ、査定基準に引っかからないよう融資額を調整するなど、制度の隙をつく運用を行っていた。
とりわけ問題視されたのは、前会長が組織内で絶対的な権限を持ち、他の職員や役員が意見を挟めない状況だったことだ。東北財務局は「ガバナンスが機能していない」とし、組織全体に法令遵守の意識が根付いていない企業風土を指摘した。
東北財務局が下した業務改善命令の中身
2025年5月29日、東北財務局は銀行法第26条に基づき、いわき信用組合に対し業務改善命令を発出。その内容は以下の6項目に及ぶ:
- 経営責任の明確化
- 法令遵守体制の強化
- コンプライアンス意識の醸成
- 無断で名義を使用された顧客への説明と謝罪
- 真相究明と再発防止策の策定
- 経営改善計画と震災特例計画の見直し(提出期限:2025年6月30日)
また、同日発表された第三者委員会による調査結果でも、不正融資と横領隠蔽の構造が組織ぐるみで長期間継続されていた事実が確認された。
理事長・専務理事が辞任 新体制で再建へ
業務改善命令を受けたいわき信用組合は同日、本多洋八理事長と坪井信浩専務理事の辞任を発表。6月13日に開催予定の通常総代会で、経営陣の刷新が正式に決定される。
新たな執行体制には、内部昇格のほか、全国信用協同組合連合会からの人材招へいも含まれる見込みである。さらに、経営の監視機能を強化するため、有識者による第三者機関を設置する予定だ。
いわき信用組合は「新執行部のもとで信頼回復に努める」とコメントし、内部には職員からの提言制度も導入する方針を示している。
公的資金200億円注入の経緯と責任
いわき信用組合は2011年の東日本大震災後、経営基盤の立て直しを目的に、金融機能強化法に基づいて約200億円の公的資金を受けている。
今回の業務改善命令を受け、東北財務局はこの特定震災特例経営強化計画の見直しも求めている。過去の支援策に対する信頼性が揺らぐことになり、制度全体の再評価も必要となる可能性がある。
消費者と地域への影響 信頼回復への道筋は
今回の不祥事は、預金者や地域住民にとって大きな衝撃を与えた。自分の名義が無断で利用され、知らぬ間に不正融資に使われていた事実に対しては、強い不信感が募る。
地域金融機関としての信頼を回復するためには、ガバナンスの徹底強化と透明性のある説明責任が不可欠だ。いわき信用組合が再発防止に本気で取り組めるかどうか、今後の動向が注目される。
参照:当組合に対する業務改善命令について(いわき信用組合)