
近年の猛暑により、「熱中症」だけでなく「熱あたり」と呼ばれる新たな健康リスクが注目されている。空調機メーカー・ダイキン工業が提唱するこの概念は、暑さに適応できない体が引き起こす多様な不調を指す。2025年の夏も厳しい暑さが予想される中、全国の自治体や企業では、体を暑さに慣れさせる「暑熱順化」の取り組みが加速している。東京都、大阪府、北海道では昨年の対策を踏まえた新たな施策が導入されており、地域ごとの対応に注目が集まる。
急激な気温上昇に備え、平時からの準備が本格化
気象庁の予報によると、2025年の夏は平年並みかそれ以上の高温が見込まれている。こうした中、各地で「熱あたり」や熱中症を未然に防ぐための新たな取り組みが進んでいる。空調機メーカー・ダイキン工業が提唱する「熱あたり」とは、暑さによって深部体温が調整されず生じる不調を総称する概念であり、寝不足や倦怠感、軽度のめまいなども含まれる。今年は特に「暑熱順化」に焦点をあてた施策が強化されている。
東京都:全庁横断の暑熱順化促進モデルを展開
東京都では2024年に実施した試験的な取り組みをもとに、今年は都内企業や行政施設に対して「暑熱順化モデルプログラム」の導入を本格化させた。出勤前や勤務中の軽運動、水分補給のタイミング指導、空調使用前の「適温滞在ゾーン」の設定などが進められている。
東京都健康長寿医療センターと連携し、職場内での暑熱順化の有効性や、従業員の体調変化に関するモニタリングも導入されているという。
大阪府:高齢者向け訪問型支援で予防の実効性高める
一方、大阪府では高齢者の熱中症予防に力を入れている。2024年までは自治体主導のチラシ配布や啓発活動にとどまっていたが、2025年は訪問介護事業者と連携した暑熱順化支援に踏み込んだ。
具体的には、利用者ごとの生活環境を踏まえて、入浴や水分摂取のタイミングを調整したり、冷房使用の開始時期について助言したりする取り組みが始まっている。府内の堺市や高槻市では、地域包括支援センターと連携し、事前アンケートによる「暑熱順化サポート対象者リスト」を整備している。
北海道:観光客への情報発信強化 全国初の熱順化リーフレット配布も
涼しい気候のイメージがある北海道でも、夏季の観光客に向けた暑熱順化への注意喚起が強化されている。北海道観光振興機構によると、2024年は観光施設単位でのポスター掲示にとどまっていたが、今年は道庁主導でリーフレット作成と配布が行われている。
新千歳空港や札幌駅などでは、観光案内所で「暑熱順化のススメ」と題するリーフレットを手に取る人の姿が見られる。内容は、渡航前から意識すべき水分補給や入浴習慣、現地到着後の気温差対応など、旅行者目線の対策が掲載されている。
暑熱順化の定着には「習慣」と「地域連携」が鍵
済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜医師によると、「暑熱順化には7〜14日程度かかり、筋肉量の少ない高齢者や自律神経が乱れがちな人は時間を要する」という。運動や入浴による体温調整機能の促進、水分摂取の習慣化が有効であり、今年はそれらを地域ぐるみで支える体制整備が進みつつある。
【比較表】2024年と2025年の主な対策の違い
地域 | 2024年の対策内容 | 2025年の対策内容 |
---|---|---|
東京都 | モデル企業での試験的導入 | 都内全域での職場暑熱順化モデルの本格実施 |
大阪府 | チラシ・広報中心の高齢者啓発 | 訪問介護と連携した個別暑熱順化支援の実施 |
北海道 | 一部観光地での掲示物のみ | 空港・観光施設でのリーフレット配布、事前情報提供の強化 |
問われる「梅雨明け前」の備え
熱中症による救急搬送が増加するのは例年、梅雨明け直後とされている。ダイキン工業の調査では、2024年夏に「熱あたり」症状を経験した可能性がある人は64.6%に上った。今夏を健やかに乗り切るには、自治体や企業の取り組みに頼るだけでなく、個人の行動変容が鍵を握る。日常生活の中で適度な運動と水分摂取を習慣づけることが、最も身近で確かな熱中症対策となる。