
米ディズニーが制作した長編アニメ映画「白雪姫」の実写版が、深刻な興行不振に陥っている。米芸能ニュースサイト「DEADLINE」によると、制作費や販売促進費などに総額4億1000万ドルが投じられたが、グッズ販売などを含めた収入は2億9500万ドルにとどまる見通しで、最終的な赤字額は1億1500万ドル(約165億円)に上る可能性が高いという。
日本でも、大型連休の終了を待たずに上映を打ち切った映画館があり、挽回の兆しは見えていない。
レイチェル・ゼグラー起用が物議に
実写版「白雪姫」は3月に公開された直後から、原作で「雪のように白い肌」とされた白雪姫役に「ラテン系米国人」を自認するレイチェル・ゼグラーを起用した点や、彼女が原作の王子を「ストーカー」と呼んだ発言などが物議を醸していた。米ボックス・オフィス・モジョの5月4日時点の調査によれば、興行収入は米国内が8612万ドル、米国外が1億1444万ドルで、当初予測をさらに下回る苦戦が続く。
ディズニーは2010年公開のアニメ映画「塔の上のラプンツェル」を実写化する計画を進めてきたが、芸能誌ハリウッドリポーターが6日までに伝えたところによると、今回の「白雪姫」の不振を受け、その制作を中断しているという。
過去には「美女と野獣」「アラジン」「ライオンキング」などの実写版が成功を収める一方で、「ダンボ」のように低迷したケースもあり、ディズニーの実写路線の明暗が分かれている。
興行不振の原因は主演女優だけではない?
一方、「白雪姫」不振の原因としては主演女優の言動だけでなく、ストーリー面でも王子様が登場しない独自の改変がファン離れを引き起こしたと指摘されている。ディズニーファンであり、ゼグラーさんのファンでもあるというある観客は「作品全体としては好みではなかったが、一部の曲やグリム童話の解釈、既存キャラクターの新たな役割には素晴らしい再構築もあった。大切なのは、この作品への評価と、主演女優のキャスティングや言動は無関係だということ。米国の映画スコアが低いことなど、ほかにも要因はあるのではないか」とコメントしている。
実際、観客の評価は「B+」にとどまり、作品内容自体が期待を裏切ったという見方もある。
消費者の反発と「ポリコレ疲れ」
なぜここまで批判が集まり、興行的にも落ち込んでいるのか。トランプ政権下で顕在化したLGBTQや人種問題に関する社会的議論は、政権交代後もエンターテインメント界で強く反映され続けてきた。ハリウッドやディズニーは多様性や公平性を前面に打ち出す作品を多数送り出し、原作の設定を大幅に書き換えたり、登場人物の人種を変更するケースが増えている。
実際、Multiple Companies Board of Advisors(顧問)を務める塚本幸一郎氏はSNS上で「実写版『白雪姫』は映画というより『企業の思想実験の失敗作』に近い。多様性や包摂性をブランド戦略として推し進めるあまり、原作の根幹設定との整合性が薄れ、視聴者の“没入感”を損なった」と指摘した。
こうした“ポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)重視”の流れは一定の評価を得る一方で、過度な改変によって原作の世界観やキャラクターが大きく変容し、ファンや一般観客が興ざめする状況も生んでいる。名作のブランド力を頼みにしながら、オリジナルのファンを満足させられないジレンマがあるといえる。
いずれにしろ、ディズニーは言わずと知れた世界最大級のエンターテインメント企業だが、あくまで事業会社である以上、興行と関連グッズ販売が失速すれば、近い将来にこの路線を修正せざるを得ないだろう。実写化による新たな市場開拓と、多様性を尊重する社会的動向とのバランスをどう図るのか。ディズニーが抱えるジレンマは、今後も世界的な注目を集め続けることになりそうだ。