
「水泳の授業は子供が水難事故で死なないためにあります」著名人のひろゆき氏が公立中学校で進む水泳授業廃止の動きに対してSNSでこう述べ、話題を集めた。近年、全国の公立中学で水泳の実技授業を廃止する動きが加速している。背景にはプールの老朽化や熱中症リスク、思春期の生徒の意向などがあるという。なぜ今、水泳の授業が消えつつあるのか。その理由と対策を探る。
水泳の授業、なぜ公立中学で廃止が相次ぐのか?
近年、全国の公立中学校で水泳の実技授業を廃止する動きが広がっている。岩手県滝沢市では2025年度から市内の中学校全6校で水泳の実技授業を取りやめる。静岡県沼津市や福井県鯖江市でも同様の動きが見られた。
その理由として挙げられるのが、プール施設の老朽化や熱中症リスク、さらには思春期の生徒が肌の露出を嫌がる声などである。岩手県滝沢市教育委員会によると、コロナ禍以降、体調不良を理由にプールの授業を欠席する生徒が増加。2023年度には1校で36%の生徒が水泳授業を欠席したという。
水泳授業の意義とその歴史
水泳授業は、かつて瀬戸内海で起きた沈没事故をきっかけに全国の学校へ導入が進んだとされる。1955年に修学旅行中の小中学生168人が命を落とした事故を契機に、文部省(現・文部科学省)は水泳授業の重要性を強調し、全国の学校プールが整備された。
学習指導要領では、中学1年生と2年生は水泳の実技が必修とされており、「適切な水泳場の確保が困難な場合」を除き、授業を行うことが原則となっている。
廃止への賛否
水泳授業の廃止を巡る意見は分かれている。自治体の担当者は「プールの老朽化や欠席者の増加、思春期の生徒の意向など、廃止の理由はやむを得ない」と話す。一方で、スポーツ庁の担当者は「事故時に命を守るためにも水泳の実技は重要」と指摘している。
SNS上では「2ちゃんねる」開設者のひろゆき氏が「水泳の授業は子供が水難事故で死なないためにあります。子どもの感情に配慮することが最善ではありません」と投稿し、賛否の声が広がった。
現場の教員や生徒、保護者の意見
水泳授業の廃止を進める背景には、現場の声がある。岩手県滝沢市の教育委員会によると、近年はコロナ禍以降、体調不良を訴える生徒が増え、その対応の負担が増していた。さらに、思春期の生徒が「肌の露出を避けたい」という声が目立ち、廃止を求める声が増加していたという。
一方、保護者の中には「水泳は命を守るために必要な技術。全廃は避けるべき」という意見も根強い。現場の教員からは「水泳指導は専門知識が求められるため、安全管理が大変だ」という声も上がっている。
廃止後の新しい取り組み
水泳授業の廃止に伴い、各自治体は代替策を模索している。岩手県滝沢市では、小学校5・6年生の段階で外部講師による水泳指導を行い、中学では座学や応急処置の講習を充実させる方針だ。さらに、福井県鯖江市では、夏休みに希望者を対象とした外部講習を実施。生徒が水難事故から身を守る術を学ぶ機会を設けている。
一部の自治体では、地域に1カ所の屋内プールを整備し、そこで集中的に水泳指導を行う動きもある。これにより、設備維持費の負担を軽減しつつ、専門性の高い指導が可能になるという。
まとめ:今後の課題と展望
水泳の実技授業を巡る議論は今後も続くだろう。プールの老朽化や熱中症リスクへの対応は重要であるが、子どもたちの命を守るための水難事故防止策としての実技授業の意義は見直されるべき点も多い。
ひろゆき氏が指摘したように、「水泳の授業は命を守るために必要」という視点は、多くの保護者や専門家から共感を集めている。今後、地域ごとにプール設備の効率的な活用や、専門家による指導の充実といった新たな対策が求められていくだろう。