
兵庫県の斎藤元彦知事を巡る文書告発問題について、県の第三者委員会が19日に発表した報告書は、知事の対応が「明らかに違法」と断じ、パワーハラスメント(以下、パワハラ)の事実を認定した。この問題の背景とともに、パワハラの定義や法的な位置づけについて詳しく見ていく。
第三者委員会が認定したパワハラ
報告書によると、斎藤知事は元県西播磨県民局長に対し、告発行為を理由に懲戒処分を科すだけでなく、日常的に厳しい叱責を行っていた。その結果、元局長の精神状態に悪影響を及ぼしただけでなく、周囲の職員の萎縮を招いたことも問題視された。
具体的には、
- 夜間や休日のチャットを通じて執拗に叱責や指示を繰り返したこと
- 記者会見で元局長を「うそ八百」と公然と非難したこと
- 職員の勤務環境を悪化させたこと
などがパワハラと認定された。
パワハラとは?
厚生労働省の定義によると、パワハラは「職場において、優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、労働者の就業環境を害する行為」とされている。具体的には、次の6つの類型に分類される。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(暴言・威圧)
- 人間関係からの切り離し(無視・隔離)
- 過大な要求(達成困難な業務の強要)
- 過小な要求(能力を著しく下回る業務の割り当て)
- 個の侵害(私的な情報の暴露)
今回のケースでは、「精神的な攻撃」に該当する行為が多く指摘されている。
パワハラ被害者の退職率と実態
パワハラを受けた労働者の中には、退職を余儀なくされるケースも多い。
- パーソル総合研究所の調査(2021年)によると、ハラスメントを理由に離職した人は年間約86.5万人にのぼると推計されている。
- 連合の調査(2019年)では、職場でパワハラを受けた人の18.9%が「退職・転職」をしたと回答。特に20代では約3割が離職を経験している。
- HRプロの調査(2019年)では、41.9%の人が「パワハラを理由に退職した経験がある」と回答。
- エン・ジャパンの調査(2017年)によると、パワハラを受けた際の対策として35%の人が「退職した」と答えている。
このように、パワハラが原因で離職に至る割合は高く、職場環境の悪化が深刻な社会問題となっている。
国民のパワハラに対する理解
近年、日本におけるパワハラに対する認識は高まっているが、依然として多くの労働者が被害を受けており、対応が十分でないと感じる人も多い。
- 厚生労働省の調査(2023年)によると、過去3年間に職場でパワハラを受けたと答えた人は19.3%で、約5人に1人が経験している。
- パワハラの具体的な内容として、「脅迫、侮辱、ひどい暴言など」が48.5%と最も多く、次いで「業務上明らかに不要なこと、遂行不可能なことの強制、仕事の妨害」が38.8%を占める。
- 一方、ハラスメントを受けた後の行動については、「何もしなかった」と答えた人が多く、その理由として「何をしても解決にならないと思ったから」が半数以上にのぼる。
これらの結果から、パワハラに関する国民の認識は高まりつつあるものの、実際に被害を受けた際の対応策が十分でない現状が浮き彫りになっている。
法的な観点からの問題
パワハラは、2020年に施行された改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)によって企業や公的機関に対策が義務付けられている。この法律により、使用者(経営者や管理職)は労働者がパワハラを受けないように環境を整備する義務を負う。
さらに、本件では公益通報者保護法にも抵触する可能性が指摘されている。同法は、公益性のある通報を行った労働者が不利益な扱いを受けないよう保護するものであり、今回の処分が「公益通報に対する報復」とみなされれば、法的責任を問われる可能性がある。
県政への影響と今後の展開
報告書を受け、県議会最大会派の自民党県議団は「客観的で的確な判断」と評価し、維新の会県議団も「知事は報告書を読み、県民に説明する責任がある」と求めた。一方、斎藤知事を支持する会派「躍動の会」の幹事長は「想定以上に違法性に言及されていた」と驚きを示した。
専門家の間でも、斎藤知事の対応には批判が集まっている。法政大学大学院の白鳥浩教授は「公益通報者保護法の違反やパワハラが認定された知事が職にとどまり続ければ、『兵庫県には法の支配が存在しない』と見られかねない。知事は自ら身を引いたほうが潔い」と指摘する。
まとめ
パワハラは、職場環境を悪化させるだけでなく、組織全体の信頼性を損なう重大な問題である。被害者の多くが退職に追い込まれ、社会的な損失も大きい。第三者委員会の報告書が示す厳しい評価を受け、県政の今後の展開に注目が集まる。