
ファスナーや建材で知られるYKKグループが、2024年度に売上1兆円という節目を迎えた。過去最高の業績を達成し、さらなる成長に向けて新たな中期経営計画を打ち出した同社。売上拡大の要因とともに、次なる成長戦略の全貌に迫る。
1兆円突破の背景にある「事業成長のカギ」
YKKグループの2024年度連結業績は、売上高1兆36億円(前年比109.1%、計画比101.6%)、営業利益627億円(同113.6%、同99.9%)と、増収増益を見込んでいる。特にファスニング事業の成長が、同グループの躍進をけん引した。
ファスニング事業の売上は4351億円(同114.7%、同106%)、営業利益は同153.3%(同123.8%)と好調だった。これは東南アジアや中国市場での衣料関連需要の増加が要因とされている。
一方、建材を中心とするAP事業は、売上高5624億円(同104.5%、同97.3%)、営業利益164億円(同64.2%、同59.6%)と増収減益の結果となった。原材料費や電力費の高騰に加え、1ドル110円の想定で策定された前中計が、円安(発表時点で1ドル152.63円)の影響を大きく受けたことが要因だ。
YKKグループが掲げる「持続可能な未来」とは
2025年度からスタートする第7次中期経営計画では、「持続可能な未来へ、ともに発展」をスローガンに掲げ、2028年度までの4年間で売上高1兆2426億円、営業利益1179億円の達成を目指している。
この新中計では以下の2つを重点施策に掲げている。これにより、利益率の改善や市場拡大を目指す考えだ。
- 収益構造の変革
- 技術革新による価値創造
収益構造の変革:リフォーム市場の拡大に注力
AP事業においては、収益改善のための施策として「リフォーム市場の拡大」を柱に据えている。具体的には、住宅事業ではリフォーム比率を2028年度までに50%(2024年度から11ポイント増)に引き上げる計画だ。ビル事業でも同期間に37%(同17ポイント増)まで拡大させることを目標としている。これに加え、大手リテール部門に対応する営業組織を新設。ハウスメーカーのリフォーム部門や専業店、家電量販店などに対応し、これまで地域ごとに行っていた営業体制を、全体を統括する体制へと移行させることで、効率化と市場拡大を図る狙いがある。
技術革新による価値創造:スマートファクトリーの実現
YKKグループは、新中計の中で製造工程の無人化・省人化を強く打ち出している。その具体的な取り組みの一環として、黒部越湖製造所では戸車やねじの自動組み立てラインの夜間無人化を2025年度中に実施する予定だ。また、六甲窓工場では、APW樹脂窓の製造ラインの夜間無人化を新中計期間中に実現する計画が進められている。さらに、AI積算システムの導入により、設計図面から必要資材の拾い出し作業を効率化し、業務負荷の軽減と精度向上を目指す。この技術革新により、生産性向上とコスト削減を同時に達成する狙いがある。
海外市場の開拓:欧州市場への本格参入
YKKグループは、新中計において海外事業の拡大にも注力している。
特に欧州市場への参入に向け、ドイツのR&Dセンターを拠点に事業拡大を計画。ユニタイズドカーテンウォールなどの商材を通じて、ビル市場の開拓を進める考えだ。
また、米国では南部6州での販売エリア拡大や新工場の設立を予定。中国では改装分野の市場対応力を強化し、カーテンウォールビジネスのモデル構築を目指している。さらに、インドネシアでは高付加価値商品の拡販に取り組む。
新社長のビジョン:「社員がわくわくする会社へ」
2024年4月1日付でYKKグループの社長に就任した松嶋耕一氏は、経営方針説明会において「社員がわくわくする活気ある会社にしたい」と抱負を語り、新たな経営方針として「ステークホルダーにしっかり価値貢献を果たす」ことと、「社員がやりがいを持てる会社にする」ことの2点を掲げた。
ステークホルダーへの価値提供については、顧客や取引先のみならず、地域社会や環境保全など広範な視点を持ち、同社の事業を通じて社会全体にプラスの影響をもたらしたい考えを示している。
一方、社員がやりがいを持てる会社づくりについては、社員一人ひとりが自主性を持ち、挑戦できる環境の整備に取り組む方針だ。松嶋氏は「すべての社員が自らの成長を実感しながら、誇りを持って働ける会社にしたい」と意気込みを語っている。
まとめ:1兆円突破を機に次の成長へ
YKKグループは、2024年度に売上1兆円の大台を突破した。これは、ファスニング事業の拡大やリフォーム市場への注力、技術革新の取り組みが実を結んだ結果といえる。
同社は新中計において「持続可能な未来へ、ともに発展」を掲げ、リフォーム事業の拡大やスマートファクトリー化、欧州市場の開拓など、多角的な成長戦略に挑む。新社長のもとでさらなる飛躍が期待されるYKKグループの今後に注目が集まる。