
政府は「ストレスチェック」の全企業義務化に踏み切った。このストレスチェックの義務化は従業員50人未満の小規模事業所も対象に含まれることで、職場環境の改善が進む期待が高まるが、一方で中小企業の負担も懸念される。働き手のメンタルヘルス不調が深刻化しており、精神障害による労災は10年で2倍に増加しているという背景もあるが、企業はどのように対応すべきなのか。実態と対策を探る。
ストレスチェック義務化拡大へ メンタルヘルス対策が本格化
政府は14日、労働安全衛生法の改正案を閣議決定し、ストレスチェックの義務化対象を全企業に拡大する方針を明らかにした。従来、従業員50人以上の事業所に限られていた義務が、50人未満の小規模事業所にも広がる。これにより、日本国内のほぼすべての働き手が年1回のストレスチェックを受ける必要がある。
背景には、メンタルヘルス不調による労災認定の急増があるとされる。厚生労働省によると、2023年度の精神障害に関する労災支給決定件数は883件で、10年前の約2倍に達した。長時間労働や職場環境の悪化が背景にあると見られている。
ストレスチェック制度とは?
ストレスチェックは、働き手のメンタルヘルス状態を把握するための検査制度。2015年に従業員50人以上の事業所を対象に義務化された。年1回、従業員は「仕事の量が適切か」「上司や同僚と円滑にコミュニケーションが取れているか」などの質問に回答し、その結果が医師や保健師から本人に通知される。会社には本人の同意がなければ結果は伝えられない。
ストレス状態が高いと判定された場合、産業医との面談が勧められる。そして会社側は個人が特定できない形で全体の結果を分析し、職場環境の改善に取り組む必要がある。
50人未満の事業所も対象に拡大 小規模企業の課題とは?
これまで50人未満の事業所が対象から外れていた理由の一つが「プライバシー保護」だ。従業員数が少ないと、結果分析の際に個人が特定される恐れがあるためだ。改正案ではこの点に配慮し、10人未満の事業所については、全員の同意がない限り結果分析は行わないとした。
また、小規模企業では専任の産業医がいない場合も多く、事務負担の増加が懸念される。こうした点を踏まえ、政府は中小企業向けに支援体制の整備を進める方針を示している。
過労死・メンタルヘルス不調の深刻化
近年、職場のストレスが原因で心の病を患う労働者が急増している。厚生労働省の調査によると、2023年度の精神障害による労災支給決定件数は883件に達し、2013年度の約2倍に増加した。特に「長時間労働」や「パワーハラスメント」が要因とされる事例が多く、働き方改革の進展が求められている。
また、厚生労働省の2021年「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、過去1年間にメンタルヘルス不調で1カ月以上の休業や退職に至った事業所の割合は10.1%に上っている。特に、1,000人以上の事業所では1カ月以上の休業者がいる割合が92.5%、退職者がいる割合が68.6%と高い数値が示されている。これに対し、10〜29人の事業所では4.4%と低いものの、規模が小さい企業でもストレスに起因する休業や退職の事例が一定数発生していることが明らかになっているのだ。
さらに、同調査内の”個人調査”では労働者の半数以上が「強いストレスを感じている」と回答。特に「仕事の量」や「仕事の質」、「責任の重さ」などが主な要因として挙げられている。これらのストレスの蓄積は過労死やメンタルヘルス不調へと直結し、深刻な社会問題となっている。
中小企業が取るべき対策とは?
ストレスチェックの義務化拡大を受け、中小企業には以下の対応が求められる。
1. 外部専門機関の活用
小規模企業では産業医が常駐していないケースが多いため、外部の専門機関を利用することで、検査の負担軽減が可能だ。厚生労働省が提供する「ストレスチェック実施支援プログラム」などを活用し、専門家の指導のもとで適切に実施することが求められる。
2. メンタルヘルス研修の実施
メンタルヘルスに関する知識が乏しいと、問題の早期発見が遅れる可能性がある。管理職や従業員向けの研修を定期的に行うことで、ストレスサインの察知や対応スキルの向上が期待できる。
3. 職場環境の見直し
ストレスチェックの結果を職場改善につなげるためには、具体的な行動が重要だ。労働時間の見直しや柔軟な勤務体系の導入、休暇取得の促進など、働きやすい環境づくりがカギとなる。
4. プライバシー保護の徹底
ストレスチェックはデリケートな情報を扱うため、情報漏洩がないよう厳格な管理が求められる。特に小規模企業では個人情報の管理ルールを策定し、従業員が安心して受けられる環境を整備することが重要だ。
まとめ:企業の健康経営が重要に
ストレスチェックの義務化は、単なる法令遵守にとどまらず、企業の「健康経営」への取り組み強化にもつながる。従業員の心身の健康維持が生産性向上や人材の定着に直結するためだ。
厚生労働省の調査では、ストレスチェック結果を活用し、残業削減や職場環境改善に取り組む企業の多くで、メンタルヘルス不調者の減少が見られたという。中小企業にとっては、適切な支援を活用しつつ、従業員の心身の健康を守る体制づくりが不可欠だ。