
年度が変わり、進学や就職、転勤などで引っ越しが増えるこの時期、賃貸住宅の退去に伴う原状回復費用をめぐるトラブルが後を絶たない。東京都消費生活総合センターによると、賃貸住宅の退去時における原状回復費用をめぐる相談が増加しており、特に、予想外の高額請求や、入居者の通常使用の範囲内で生じた劣化に対する請求が問題となっている。同センターによれば、賃貸物件に関する相談の中で、原状回復に関するものが多くを占め、特に20~30代の若年層からの相談が目立つという。
20~30代に賃貸トラブルが多い理由
- 経験・知識不足 – 初めての賃貸契約が多く、契約内容や原状回復のルールを十分に理解していない。
- 精算への認識不足 – 経年劣化や通常使用の範囲を知らず、不当な請求を受けやすい。
- 退去時の立ち会いを省略 – 忙しさから確認を怠り、後で高額請求されることがある。
- 貸主優位の契約が多い – 不利な条件でも契約を結んでしまうケースが多い。
- 悪質な貸主に狙われやすい – 若年層の知識不足を利用し、高額な原状回復費を請求されることがある。
- 誤情報に影響されやすい – SNSやインターネットの不正確な情報を信じ、適切な対応ができないことがある。
事例:退去後に高額請求
ある20代男性のケースでは、3年間居住した家賃7万9,000円の賃貸アパートを退去する際、貸主に立ち会いを求めたものの「行けない」と断られた。さらに、貸主からは「原状回復費用は敷金で賄える」と伝えられていた。しかし、後日送られてきた請求書には、エアコンクリーニングや壁紙全面貼り替え費用など計6万8,000円の追加請求が記載されていた。通常の生活で生じた経年劣化と考えられるにもかかわらず、追加請求を受けたことに納得がいかないという。
原状回復とは?
原状回復とは、賃借人の故意・過失により生じた損傷や汚れを復旧することであり、経年劣化や通常使用による損耗は原状回復の対象外とされている。例えば、以下のようなケースは賃借人の負担になる可能性がある。
- 結露を放置したことによるカビやシミの拡大
- 喫煙によるヤニや臭い
- ペットによる傷や臭いの付着
一方、通常使用による壁紙の黄ばみやフローリングの自然な摩耗は貸主負担となるのが基本だ。国土交通省が作成した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、この基準が明確に示されている。
窓口相談を利用して解決した人の声
30代男性・東京都
「退去後に敷金を超える10万円以上の原状回復費を請求されましたが、納得がいかず消費生活センターに相談しました。アドバイスを受けて貸主にガイドラインを提示し交渉したところ、経年劣化と判断され、結局、請求額が半額以下になりました。相談窓口を利用して本当に良かったです。」
20代女性・大阪府
「退去時にクリーニング費用として5万円を請求されましたが、契約書を確認すると明確な記載がなく、納得がいきませんでした。消費者ホットライン(188)に相談し、契約上の特約がないことを根拠に管理会社と交渉。結果として、クリーニング費用の請求は撤回され、一切支払わずに済みました。」
退去時のトラブルを防ぐために
退去時に不当な請求を受けないためには、以下の対策が有効である。
- 入居時の状態を記録する
入居直後に、部屋の傷や汚れを写真に撮り、日付入りで保存しておく。貸主にも共有しておくとより効果的。 - 契約書の確認
退去時のクリーニング費用や原状回復について特約が定められている場合があるため、事前に契約書をよく読み、不明点は契約前に確認する。 - 退去時の立ち会いを求める
退去時には貸主または管理会社の担当者と一緒に部屋の状態を確認し、納得のいく形で原状回復費用を決定する。 - 請求内容を精査する
退去後に請求書が送られてきた場合、内訳を確認し、通常使用の範囲を超えた損耗であるかどうかを判断する。疑問があれば説明を求め、場合によっては消費生活センターなどに相談する。
原状回復をめぐるトラブルの未然防止と円滑な解決のために、国土交通省が作成したガイドラインがある。
*参考* 国土交通省:「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版) (https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html)
相談窓口の活用
納得のいかない請求を受けた場合は、まず貸主に説明を求め、それでも解決しない場合は以下の窓口に相談するとよい。
- 東京都消費生活総合センター (03-3235-1155)
- お近くの消費生活センター(消費者ホットライン:188)