
トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談が決裂し、米国がウクライナへの軍事支援停止を検討しているとの報道が波紋を広げている。
首脳会談決裂の背景と経緯
2月28日、ホワイトハウスで行われたトランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談は、冒頭から緊張感が漂っていた。トランプ氏は、ウクライナへの多大な支援に対する感謝の欠如を指摘し、ゼレンスキー氏を非難した。これに対し、ゼレンスキー氏はロシアのプーチン大統領への不信感を表明し、米国の安全保障上の保証を求めた。会談は公開の場で激しい応酬となり、予定されていた鉱物資源に関する協定の署名や共同記者会見は中止された。
会談の口論の発端となったのは、米国のバンス副大統領の発言だった。ゼレンスキー氏が「米国がロシアとの妥協を図ることで、ウクライナの安全はどのように保証されるのか」と質問したことに対し、バンス氏は「米国はウクライナに十分すぎるほど支援を提供してきた。感謝が足りないのではないか」と強い口調で応じた。ゼレンスキー氏が「ウクライナは自国の生存をかけて戦っている」と反論すると、バンス氏は「あなた方の戦争が、米国の財政を圧迫していることを理解しているのか」と語気を強めた。
このやり取りを受けて、トランプ氏もゼレンスキー氏を批判し、「第三次世界大戦を引き起こそうとしているのは誰なのか、考え直した方がいい」と発言。会談の雰囲気は一気に悪化し、その後の議論は平行線をたどることになった。
米国の軍事支援の現状と見直しの動き
ウクライナはロシアの侵攻に対抗するため、米国からの軍事支援を受けてきた。2022年2月以降、米国はウクライナに対し、総額659億ドル(日本円にして約9兆9000億円)の軍事支援を提供している。これには、最新鋭の防空システム、長距離ミサイル、高機動ロケット砲システム(HIMARS)、戦車、装甲車、弾薬補給、さらには情報収集支援、衛星監視技術の提供などが含まれる。
また、米国はウクライナ軍の訓練支援にも力を入れており、NATOと連携しながら戦術指導や最新兵器の運用訓練を実施してきた。これにより、ウクライナ軍の戦闘能力は大幅に向上し、ロシア軍に対する防衛能力を強化することができた。
しかし、トランプ政権はウクライナ支援の意義を再評価しており、ゼレンスキー氏の要求が米国の国益に適うかが問われている。共和党内には「米国が自国の防衛を優先すべきだ」との声もあり、軍事支援を続けることに慎重な意見が広がっている。一方、民主党や国際関係の専門家からは「支援の縮小はウクライナの防衛を弱体化させ、ロシアの攻勢を強める結果につながる」との懸念も示されている。
米国内の政治的な反応と対立
与党・共和党内ではトランプ氏を支持する声が目立ち、「米国が利用される時代は終わった」とする見解が強まっている。特に保守派の議員や財政規律を重視する層からは「米国の国益を第一に考えるべきであり、ウクライナ支援は際限なく続けるものではない」との主張が広がっている。また、支援の停止を求める声の中には、ロシアとの外交的な関与を強化し、直接対話による紛争解決を模索すべきとの意見もある。
一方で、民主党側は「ウクライナへの支援停止はプーチン大統領を利する行為」と強く批判している。バイデン政権や国防総省の高官らは、「支援の打ち切りは、ウクライナの戦闘継続能力を著しく損なうだけでなく、欧州の安全保障にも深刻な影響を及ぼす」と警告している。また、国際関係の専門家の中には、「米国が支援を打ち切ることで、NATOの信頼性が損なわれ、他の同盟国にも悪影響を及ぼしかねない」との懸念を示す声も多い。
NATOの立場と対応
NATO(北大西洋条約機構)は、ウクライナ支援において重要な役割を果たしている。2023年7月のNATOサミットでは、NATO-ウクライナ評議会(NUC)が設立され、ウクライナがNATO加盟国と協議できる枠組みが整えられた。
また、2024年7月には、ウクライナ軍の訓練や支援物資の調整を担う「NATOウクライナ安全保障支援および訓練組織(NSATU)」がドイツに設立された。
しかし、米国の軍事支援停止の可能性が報じられる中、NATO内でも動揺が広がっている。米国の関与が縮小すれば、欧州諸国は独自に防衛予算を増額し、新たな戦略を模索する必要に迫られる。
フランスのマクロン大統領と英国のスターマー首相は、ウクライナとロシアの停戦を提案しつつ、防衛支出の拡充を主張している。しかし、米国の支援が減少すれば、NATOの結束やウクライナ支援の持続性に影響を及ぼす可能性がある。
NATOは現在、ウクライナへの支援を継続しながら、米国の政策変化に対応する戦略を再評価しており、欧州諸国は防衛力の強化と連携を進めている。
軍事支援停止の影響と今後のシナリオ
米国が軍事支援を停止すれば、財政負担が軽減される可能性がある。しかし、ウクライナの防衛力が低下し、ロシアの影響力が拡大するリスクもある。また、欧州諸国との連携が弱まり、NATOの結束にも影響を及ぼす可能性が指摘されている。
今回の会談決裂により、ウクライナへの軍事支援の行方が注目される。米国が支援を停止すれば、ウクライナは欧州諸国への依存を強める可能性がある。一方、ロシアとの停戦交渉はさらに難航することが予想される。米政権は今後もロシアとの関係改善に向けた取り組みを進めるとみられるが、その動向は不透明だ。