
1990年代半ば以降に生まれたZ世代が、物価上昇と賃金増加を当然と捉え、消費を牽引している。三井住友カードのデータ分析によると、2024年の20代以下のクレジットカード決済金額は2019年比で2割以上増加し、世代別で最も高い伸びを示した。
Z世代の消費行動:メリハリ消費が特徴
Z世代は、働き始めてから物価と賃金の上昇を当然と考え、「失われた30年」をほとんど経験していない。賃金構造基本統計によると、2020年から2024年にかけて20代・大卒の所定内給与は約10%増加した一方、40代では3〜5%程度の増加にとどまる。また、日本銀行のデータでは、20代が経験した平均物価上昇率は約2%と他の世代より高い。
この世代の特徴は、節約しつつも「推し活」や海外旅行など、自分の価値観に合致するものには積極的に支出する「メリハリ消費」にある。例えば、2024年の海外旅行消費額は20代で3割増加し、全世代平均の1割減少とは対照的な結果となった。今では、旅行先の選定にSNSで見た情報や口コミを参考にする動きが強まり、メディアでも報じられている。こうした消費行動はZ世代の特徴の一つとなっている。
また、歴史ある老舗旅館や長い歴史を持つ服飾店もSNSを積極的に活用し、現代のトレンドに合わせた商品展開やマーケティングを展開している。伝統と最新の流行を融合させることで、若い世代の関心を引きつけ、売上向上につなげている事例も増えている。
企業の対応:高価格帯商品とブランド戦略
企業もZ世代の消費傾向に対応し、高価格帯の商品を投入している。ユナイテッドアローズの松崎善則社長は「ファッションへの消費額が多い層が顧客の『ユナイテッドアローズ』や『ビューティー&ユース』は値上げを進める」と述べる。また、カゴメは昨年夏から秋に数量限定で販売したトマトジュース(720ミリリットル)を一般品より4割高い価格で提供し、美容効果が見直され20〜30代の女性に好評を得た。山口聡社長は「節約志向が強まっても価値をどう理解してもらうかが重要だ」と強調する。
Z世代の台頭は、日銀が10年間続けた異次元緩和でも動きが鈍かった「期待インフレ率」を高める一因ともなっている。債券利回りをもとに推計すると、2023年に1%を突破し、直近では1.5%程度に達している。
物価上昇と消費者心理の変化
東大の渡辺努教授は、今後の物価について「消費者のインフレ予想が左右する」と指摘する。特に、これまで変動が少なかった家賃が2024年から大きく上昇しており、不動産情報サービスのアットホームによれば、同年12月の東京23区のシングル向け賃貸マンション平均募集家賃は9.6万円で、7カ月連続で最高値を更新した。
Z世代の消費が経済のカギに
デフレを知らない世代が物価と消費を動かす中、企業は安さ競争から脱却し、Z世代の価値観に合わせた商品・サービスの提供が求められる。独自性やウェルビーイングを重視する彼らに対し、カスタマイズ可能な商品やサステナビリティに配慮した商品が支持を得る可能性が高い。また、SNSや口コミを重視する傾向があるため、デジタルプラットフォームでの情報発信やエンゲージメント強化が重要となる。
サステナビリティへの関心も高く、特にジェンダー平等や産業と技術革新に興味を示すZ世代に対しては、これらのテーマを取り入れた商品開発やマーケティング戦略が効果的と考えられる。企業は、Z世代の多様な価値観や消費傾向を理解し、柔軟かつ革新的なアプローチで対応することが、今後の成長の鍵となるだろう。
これからの企業の存続は、いかにネット社会に対応できるかにかかっている。SNSやデジタルマーケティングの活用を怠れば、若い世代の関心を引くことは難しく、競争力を失う可能性が高い。従来のビジネスモデルを維持するだけではなく、Z世代の消費行動に適応することが、企業の命運を左右する時代となった。