公益社団法人日本広告審査機構(JARO)が2024年度上半期(4月~9月)の広告苦情統計を公表した。総受付件数は5,311件、そのうち苦情は4,095件にのぼる。この数は前年同期比で減少しているものの、依然として医薬部外品や健康食品、オンラインゲームなど特定業種への苦情が多い状況が明らかになった。
特に、インターネット広告の「ダークパターン」と呼ばれる誤解を招く手法や、不当なNo.1表示が問題視されている。
苦情の中心は「健康食品」や「医薬部外品」
JAROによると、苦情の業種別内訳では医薬部外品が最も多く、健康食品やオンラインゲームが続いた。特に健康食品では、精力増強を謳う広告が前年同期の9件から80件に急増しており、生成AIを使った性的なビジュアルが多くの批判を集めた。また、「解約不要」「初回特別価格980円」などと謳いながら、実際には定期購入契約を強いる手法が目立つという。
オンラインゲームに対しては、「広告とゲーム内容が異なる」といった苦情が寄せられ、通信販売では条件を隠した割引表示や誤認を誘う広告が問題視された。さらに、医療機関による「GLP-1ダイエット」の広告には、医療法の広告規制違反が指摘され、JAROから厳重警告が出された。
ネット広告に潜む「落とし穴」
田中美咲さん(仮名)は、SNSに流れる派手な広告に引き寄せられた。「若返りすぎて話題沸騰!今だけ特別価格980円!」という言葉に心が動き、気づけば購入手続きを完了していた。だが数日後、届いた商品には「定期購入初月特別価格」と書かれ、次月以降の価格が大幅に上がる仕組みになっていた。
さらに、「解約には手数料が必要」との小さな注意書きを見つけ、美咲さんは詐欺にあったような感覚を覚えた。「どうしてこんな表示が許されるの?」とJAROに苦情を申し立てたところ、この広告は「誤解を招く表示」と判断され、広告主に改善指導が行われた。
このようなダークパターンの手法は、消費者の心理を巧妙に操作して契約を迫るもので、近年特に問題視されている。
媒体別ではインターネットが最多
苦情の媒体別内訳では、インターネットが最多の2,000件を占めた。特に、医薬部外品やオンラインゲームに関連する苦情が目立つ。他の媒体であるテレビやラジオは減少傾向にあるが、インターネット広告は引き続き改善の余地があると言える。
JAROは、広告の適正化を目指すため、消費者に対して「広告を閲覧する際にはスクリーンショットを残し、不適切な表示があれば報告してほしい」と呼びかけている。また、苦情内容の中で特に多い「虚偽や誇大広告」について、広告主やアフィリエイターに対する教育も重要視されている。
JAROの活動と今後の課題
JAROは、広告表示の適正化を図る自主規制機関として、広告主や媒体社と協力しながら取り組みを続けている。「悪い広告をなくし、正しい広告を育てる」ことを目指し、行政や消費者と連携して苦情解決や啓発活動を進めているが、インターネット広告の問題は依然として深刻だ。
特に、今回話題となった「GLP-1ダイエット」の事例では、糖尿病治療薬を痩身目的で宣伝する違法広告に対し、厳重警告が出された。JAROは、こうした医療系広告の取り締まりを強化すると同時に、広告を見る側の消費者リテラシー向上にも注力していく方針だ。