多様性重視の経営戦略が奏功

男性専門の総合美容医療クリニックを運営するゴリラクリニックは、従業員の身だしなみ規定を緩和した結果、顧客満足度が向上したと発表した。
2024年1月に従来の規定を改定し、髪色やネイル、アクセサリーの自由化を導入したところ、顧客満足度調査でスタッフの身だしなみについて平均9点(10点満点)という高い評価を獲得。多様性を重視する経営戦略が顧客から高評価を得ている背景や、今後の事業展開について解説する。
従業員の個性を尊重する、新たな身だしなみ規定
ゴリラクリニックは2024年1月に従業員の身だしなみ規定を改定。医療機関としての安全性や衛生面を確保しながらも、従業員の個性を生かした働き方を認め、「髪色制限の廃止」「アクセサリー着用規定の一部緩和」「ネイルの自由化」といった変更を実施した。
これは、男性患者が多様化する中で、従業員の個性を尊重し、より働きやすい環境を提供することで、顧客満足度向上につなげる狙いがあった。
顧客満足度調査で平均9点の高評価

改定の効果を検証するため、ゴリラクリニックは同年6月28日から9月30日にかけて、全国のクリニックに来院した患者800名を対象に、スタッフの身だしなみに対する満足度調査を実施。

その結果、医師、看護師、カウンセラーといった全カテゴリーにおいて、平均9点という高い評価を得るに至った。

ゴリラクリニック総院長の稲見文彦医師は、「10年前、クリニックを開業した当時は、『男は中身で勝負』『男性が美容なんて』といった風潮があった。しかし、この10年で男性美容を取り巻く環境は大きく変化した。多様化する患者さまのニーズに応えるためには、従業員一人ひとりの個性を尊重し、生き生きと働ける環境を作る必要があると考えた」と、身だしなみ規定緩和の背景を説明する。
多様性重視の経営戦略が顧客満足度向上につながる
この結果について、ゴリラクリニックは「従業員が新たな身だしなみ規定のもと、個々の多様性を活かしながらも、患者に安心感と信頼感を与える接客を提供できていることの証」と分析している。
ゴリラクリニックがこのような取り組みを行う背景には、男性美容市場の拡大と顧客ニーズの多様化がある。従来、男性美容市場はニッチな分野とされてきたが、近年では男性の美意識の高まりや、美容医療技術の進化などを背景に、市場規模は拡大を続けている。
こうした市場環境の変化に伴い、ゴリラクリニックは顧客層の多様化に対応するため、従業員の多様性を尊重する経営戦略を強化。今回の身だしなみ規定の緩和は、その一環と位置付けている。
今後の事業展開 – 多様性を重視した採用・人材育成を強化
ゴリラクリニックは今後、多様性を重視した採用活動や人材育成を強化していく方針だ。具体的には、LGBTQ+など性的マイノリティへの理解を深め、誰もが働きやすい環境づくりに取り組む。
創業10周年を迎えたゴリラクリニックは、今回の取り組みを契機に、顧客満足度向上と企業価値向上を両立する経営体制を一層強化していく方針だ。多様性を重視した経営戦略が、今後の男性美容市場における成長の鍵を握ると言えそうだ。

個性を解き放つ経営 ~顧客満足度を高める時代の変化~

株式会社Sacco 代表取締役。一般社団法人100年経営研究機構参与。一般社団法人SHOEHORN理事。週刊誌・月刊誌のライターを経て2015年Saccoを起業。
連載: 日経MJ『老舗リブランディング』、週刊エコノミスト 『SDGs最前線』、日本経済新聞電子版『長寿企業の研究』