
東京・表参道の街を歩いていると、ふと足元に視線が向く。行き交う人のスニーカーの底が、やけに厚い。若い女性だけではない。ベビーカーを押す母親も、通勤途中の会社員も、そして白髪の高齢男性も厚底スニーカーを履いている。
1990年代、歌手・安室奈美恵の影響で社会現象となった厚底ブーツの流行から約30年。いま再び厚底の靴が街に戻ってきた。ただし今回は単なるファッションではない。スタイルアップと歩きやすさを両立した“進化した厚底”として、世代を越えて広がり始めている。
街に増えた厚底スニーカー 「盛れる」だけではない理由
休日の表参道。ブランドショップが並ぶ通りを行き交う人々の足元には、厚みのあるソールのスニーカーが目立つ。
「身長が5センチくらい高く見えるんです」
笑いながらそう話す女性の足元には、白い厚底スニーカーがあった。
背を高く見せたいという願いは昔から変わらない。しかし今回のブームは、単なる見た目の効果だけではない。
ハイヒールのように不安定ではなく、スニーカーの安定感を保ったままスタイルアップできる。その実用性が人気を後押ししている。
さらに近年の厚底スニーカーは、履き心地も大きく進化した。
高反発素材を使ったソールは歩くたびに足を押し出すような感覚を生み、衝撃を吸収してくれる。
実際に履いた人はこう話す。
「ふわふわして、浮いている感じがします」
かつて“重くて歩きにくい靴”だった厚底は、いまや歩きやすい靴へと変わりつつある。
ワークマンやしまむらが広げた“高コスパ厚底”
今回の厚底ブームを後押ししているのは価格の変化だ。
ワークマンでは厚底スニーカー「ハイバウンスファントムライド」を2026年2月に発売。価格は税込3900円。
スポーツブランドの厚底シューズが1万円を超えることも多い中、この価格は驚きだ。
試し履きをした人は思わずこう言う。
「軽いですね。クッションも柔らかい」
しまむらでも3000円以下の厚底スニーカーが販売されており、SNSでは
「かわいいのに安い」
「コスパ最高」
といった声が広がっている。
つまり今回のブームは、ハイブランドの流行ではない。日常靴として買いやすくなったことで、幅広い世代に広がったのである。
高齢男性にも広がる理由 “膝を守る靴”としての厚底
店頭で厚底スニーカーを手に取っていたのは、78歳の男性だった。
野球の審判を20年以上続けており、膝への負担を軽減する靴を探しているという。
「膝は持病みたいなもの。クッションのいい靴じゃないと疲れてしまう」
男性は毎朝5時半から1時間のウォーキングを日課にしている。
厚底スニーカーは、身長を高く見せるためではなく、衝撃を吸収する靴として選ばれていた。
実際、近年のランニングシューズの世界では厚底が主流になっている。足への衝撃を減らすことで、膝や腰の負担を軽減する効果があるとされる。
その技術が日常靴にも広がったことで、高齢者にも支持されるようになった。
厚底スニーカーのメリットとデメリット
厚底スニーカーの最大の魅力は、スタイルアップ効果だ。
ソールが数センチ高いため、履くだけで脚が長く見える。ハイヒールのような不安定さがないため、日常使いしやすい。
さらにクッション性の高さも評価されている。衝撃吸収素材が使われたモデルでは歩行時の負担が減り、長時間歩いても疲れにくい。
立ち仕事の人やウォーキングをする人に支持されている理由でもある。
一方で注意点もある。
ソールが高い分、慣れていない人は足首をひねりやすい。階段や段差ではバランスを崩すこともある。
またクッションが柔らかすぎる場合、歩き方によっては股関節や腰に負担がかかる可能性も指摘されている。
つまり厚底スニーカーは万能ではない。用途や歩き方に合った靴を選ぶことが重要になる。
人気の厚底スニーカーブランド
厚底スニーカーは現在、多くのブランドが展開している。
スポーツブランドではナイキの厚底ランニングシューズが有名だ。厚いミッドソールと反発素材を組み合わせた設計で、マラソン界でも話題になった。
ニューバランスはクッション性に優れた厚底スニーカーを多く展開しており、日常使いしやすいデザインが人気だ。
ホカは厚底シューズの代表的ブランドとして知られ、分厚いソールと軽さの組み合わせが特徴だ。
日本ブランドではアシックスも厚底ランニングシューズを展開しており、スポーツ技術を生かしたモデルが注目されている。
さらに近年はワークマンが低価格モデルで人気を集めている。
高機能モデルから高コスパモデルまで、幅広い価格帯で厚底スニーカーが選べるようになったことも、今回のブームの特徴といえる。
厚底ランニングシューズが変えた靴の常識
現在の厚底ブームの背景には、ランニングシューズの技術革新がある。
マラソン界では、厚底ランニングシューズが記録を塗り替える存在として注目されてきた。
厚いソールには高反発素材が使われ、着地の衝撃を吸収しながら前に進む力を生み出す。
さらにカーボンプレートと呼ばれる板を内蔵することで、走る力を効率よく伝える仕組みも登場した。
こうした技術が一般のスニーカーにも応用され、歩きやすい厚底シューズが増えている。
つまり現在の厚底スニーカーは、単なるファッションではなく、スポーツ科学の進化によって生まれた靴ともいえる。
第3次厚底ブームは定着するのか
厚底シューズの流行はこれまで何度も繰り返されてきた。
1990年代の厚底ブーツ。
2010年代のファッションスニーカー。
そして現在、機能性を備えた厚底スニーカーが広がりつつある。
今回の特徴は、見た目よりも機能にある。
衝撃吸収、軽量化、歩行サポート。
スポーツシューズの技術が日常の靴に取り入れられたことで、厚底は単なる流行ではなく機能靴として定着する可能性がある。
街を歩く人々の足元を見ると、その変化はすでに始まっている。
厚底スニーカーは、いま確実に世代を超えて広がりつつある。



