
海外旅行者の必需品として長年親しまれてきたモバイルルーターレンタルサービス「イモトのWiFi」。その運営会社に対し、消費者庁から巨額の課徴金納付命令が下された。
12日の発表によると、エクスコムグローバルは、景品表示法第8条第1項に基づく1億7262万円の課徴金納付を命じられた。長きにわたり業界を牽引してきた有名サービスに何が起きたのか。この問題において、SNS上で浮き彫りになったのは、単なる法令違反にとどまらない、同社の特異なビジネス背景と「No.1表示」の危うさである。
なぜ今回の処分はこれほどまでに物議を醸しているのか。その背景にある違和感と事の経緯を紐解いていく。
根拠なき「イモトのWiFi」3冠表示の実態
エクスコムグローバルは令和2年(2020年)2月12日から令和6年(2024年)5月7日までの長期間にわたり、旅行ガイドブック「地球の歩き方」の広告や自社ウェブサイトにおいて、自社が提供する海外用モバイルWi-Fiルーターレンタルサービス「イモトのWiFi」について、「お客様満足度 No.1」「海外旅行者が選ぶ No.1」「顧客対応満足度 No.1」の3項目で首位を獲得したと表示していた。あたかも、実際の利用者を対象に客観的な調査を行い、同社が提供するサービスの順位がそれぞれ第1位であるかのように謳っていたのだという。
しかし、消費者庁によって暴かれた実態は、およそ調査と呼べる代物ではなかった。同社が委託した事業者によるアンケートは、回答者が実際に「イモトのWiFi」や他社の類似サービスを利用したことがあるかを確認すらしていなかったのだ。自社と特定の他社9事業者のサービスを任意に選択し、それら提供事業者のウェブサイトの印象を問うだけのものに過ぎず、客観的な調査に基づくものとは到底言えなかったようである。
さらに、表示自体も調査結果を正確かつ適正に引用しているものではなかったと認定された。実際の利用者の声を無視し、ウェブサイトの印象だけで自社サービスを「満足度No.1」と名乗る行為は、消費者を欺く明らかな「優良誤認表示」である、ということになる。
SNSが着目した「にしたんクリニック」仕掛け人のビジネス背景
このニュースに対し、XなどのSNS上では「ランキング調査だけでここまでいくんですね…えぐ…」「満足度No.1とか軽々しく使うとヤバいですね」「景品表示法違反って高くつくんですねぇ」といった、1億7000万円を超える課徴金額の大きさに驚く声が散見された。
一方で、事態をさらに興味深いものにしているのが、同社のビジネス背景に関する指摘である。ネット回線アドバイザーを名乗るあるユーザーは、SNS上で「『イモトのWiFi』を運営しているのは、コロナ禍にPCR検査事業でV時回復をした『にしたんクリニック』です」と言及した。正確に言えば、医療法人である「にしたんクリニック」のスポンサーとして、あのPCR検査事業を全面的にプロデュースし、爆発的な利益を生み出した“仕掛け人”こそが、エクスコムグローバルとその西村誠司社長なのである。
同ユーザーはさらに「社長さんめちゃくちゃ儲かってらっしゃる(個人資産300億だとか)から、きっと痛くも痒くもなさそうだけど…」と、同社長の潤沢な資金力にも触れた。
次第にSNS上では、この巨額の課徴金に対する違和感を口にする投稿が目立つようになっていく。違和感の正体は、一般企業であれば倒産すら危ぶまれる1.7億円という罰金が、今のエクスコムグローバルにとっては決定的な痛手にはならないのではないか、という推測にある。
コロナ禍で海外渡航が激減し「イモトのWiFi」事業が存亡の危機に立たされた際、同社は前述のPCR検査事業への参入で息を吹き返した。こうした背景を知る者からすれば、今回の課徴金も「莫大な利益の一部が削られただけ」と映るのも無理はないだろう。
過去の類似事案が示す「調査会社任せ」の罠
ただ、事態を複雑にしているのが、近年消費者庁がこの種の「No.1表示」に対して極めて厳しい姿勢をとっているという事実だ。
過去の事例を振り返れば、オンライン家庭教師サービスや太陽光発電販売などの企業が、同じように「実際の利用状況を確認しない印象調査」を根拠にNo.1を謳い、数千万円から1億円規模の課徴金を命じられている。つまり、調査会社が持ち込む「ランキング商法」に乗っかり、実態のない称号で消費者を誘引する手法は、もはや行政の明確な標的になっているのだ。
エクスコムグローバルの社内検証体制はどうなっていたのか。消費者庁の資料には、同社が「調査結果が客観的な調査に基づくものであるか、また、当該調査結果と表示内容が適切に対応しているかについて十分な検証を行うことなく」表示を行っていたと明確に指摘されている。
求められる企業リテラシーと経営層の責任
市場競争が激化する中、他社との差別化を図るためのマーケティング活動は不可欠である。「イモトのWiFi」もまた、熾烈な競争を勝ち抜くために強烈なキャッチコピーを求めたのだろう。
景品表示法の観点から見て、何がいけなかったのだろうか。第三者機関に調査を委託したからといって、その結果が無条件に免罪符となるわけではない。広告代理店やリサーチ会社から提案された「No.1称号」を安易に受け入れるのではなく、「その調査手法は実際の利用者を対象としているか」「景品表示法の観点から妥当か」を、経営層自らが検証する社内体制を構築すべきだったのかもしれない。
西村誠司社長の卓越したビジネス手腕とプロデュース力は、コロナ禍の窮地から企業を救った。だが、その一方で、足元のコンプライアンスや消費者への誠実さが置き去りにされてはいなかったか。1.7億円の課徴金は財務的には致命傷ではないかもしれない。しかし、法令違反による「ブランドの失墜」という無形の損失は、いかに資金力があろうとも容易に回復できるものではない。ネット上の情報が入り乱れる中、企業にはコンプライアンスに対する冷静かつ厳格なリテラシーが求められている。



