TBSスクープとネット捜査官の「挟み撃ち」が暴いた、850億円消失事件への加担

「詐欺のメンバーとして、弊社の社員が加担している」
テレビ画面の向こうで、現役社員とおぼしき人物が、変声機越しの無機質な声でそう告発した。
この衝撃的な報道が流れてから数日後の2月10日。
都内で開かれたプルデンシャル生命保険の記者会見は、表面上の平穏とは裏腹に、異様な緊張感に包まれていた。
「当方の対応の拙さにより、ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
冒頭、司会者は深々と頭を下げた。1月の会見で特定の記者しか指名しなかった記者選別問題への謝罪だ。得丸博充新社長は「信頼回復に向けた道のりは険しい」と語り、社員による31億円の詐欺被害を全額補償することや、インセンティブ制度の見直しを表明した。
しかし、詰めかけた記者や被害者たちが本当に聞きたかったのは、社内の金銭詐取の件ではない。冒頭の告発にあったような、プルデンシャルの“看板”を利用して行われた、さらに深い闇についてだ。
会社側は「元社員が詐欺に抵触していた場合は、警察と連携する」と述べるにとどめ、個別の事案(エクシアやスカイプレミアムなど)への具体的な言及を避け続けた。
なぜ、頑なに口を閉ざすのか。実はこの会見の裏で、大手メディアとネット社会双方から、プルデンシャルを追い詰める包囲網が狭まっていたのだ。
JNNが報じた「衝撃の告発」と、闇を暴く“ネットの捜査官”
口火を切ったのは、1回目の会見後、JNN(TBS)の報道番組だった。「詐欺のメンバーとして弊社の社員が加担(している)」 「一つは数億円に被害が膨れ上がっている」
番組では、プルデンシャル生命の新大阪支社のオフィス内で、顧客に対してエクシアへの勧誘が行われていたという疑惑を報道。「新大阪のプルデンシャルの支社に来て欲しい」と顧客を呼び出し、信用ある会社の会議室で、怪しげな投資話を契約させていたというのだ。
そして、この報道以前から、執拗に事実を掘り起こし、証拠を積み上げてきた“ネットの捜査官”が存在する。Xアカウント「ポンジちゃん(@ponzichan)」だ。プロフィールに「投資詐欺事件ウォッチが趣味」とあるこのアカウントは、被害者たちの駆け込み寺となり、膨大な証拠画像や証言を集約。
実は、ポンジちゃん氏による追及は今に始まったことではない。エクシア問題が世間で大きく騒がれはじめた2022年の時点で、既にプルデンシャル営業マンの不正を告発するブログ記事を公開し、彼を追い詰めていたのだ。
例えば、2022年11月30日に公開されたブログ記事のタイトルはなかなかに衝撃的だ。
『直昌宏氏がプルデンシャル生命保険在籍中の2020年5月8日に、関戸直生人と一緒にエクシア合同会社の勧誘を行った証拠』
記事では、直氏がプルデンシャルを退職する約半年前の2020年5月、Zoomを使ってエクシア幹部の関戸氏と共に堂々と勧誘を行っていた事実を指摘。その証拠となる動画リンクまで掲載し、「プルデンシャルの看板を利用して勧誘していたなら、会社にも責任追及が可能ではないか」と、現在の事態を予見するかのような警告を発していたのである。
プルデンシャルの会見後、他にも多くの人間が同社の問題を追及しはじめている。例えば、元三井住友銀行の行員でインフルエンサーのひぐまあきのり氏も、彼らを指して「被害者が全員コイツから紹介されました!って言えばプルデンシャル生命が損失補填してくれるんですかね?」と鋭く問い続けている。
JNNのスクープと、個人たちによる追及。この二本の矢が指し示す先にいるのが、かつてプルデンシャルで「伝説」と呼ばれた男、直昌宏(なお・まさひろ)氏その人だった。
850億円が消失…エクシアの正体と“年収数億円”のカリスマ

ポンジちゃんが名指しで告発し、TBS報道の背後にも見え隠れするこの直氏という男。彼は単なる一営業マンではない。元エグゼクティブ・ライフプランナー、直昌宏(なお・まさひろ)氏。全世界の生命保険営業職のトップ0.01%しか入会できない「TOT」に選出されるほどの実力者であり、「チーム直」と呼ばれる若手集団を従えていた業界のカリスマである。
彼らが熱心に売り捌いていた「エクシア合同会社」とは、一言で言えば「月利3%以上」を謳い、約9000人から総額850億円もの資金を吸い上げた巨大な投資詐欺疑惑案件だ。2022年に破綻し、多くの出資者が資産を失ったこの沈みゆく泥舟に、信用ある保険会社の営業マンが、資産運用のプロの顔をして顧客を乗せていたのだ。
直氏は2021年1月31日に退職しているが、SNSの記録からは、彼がいかにして在職中に顧客をエクシアの泥沼に引き込んだかが浮かび上がってくる。
直氏はプルデンシャル在職中、エクシアの幹部の関戸直生人氏と結託。セミナーではスクリーンに関戸氏と共に登壇し、自身の威光を背に投資を推奨していたとされる。

「支社に呼ばれたら信じるしかない」被害者の慟哭
TBSが報じた通り、プルデンシャルの場所と看板が悪用されたことで、被害は拡大した。取材に応じた被害者たちは、口を揃えて「プルデンシャルだから信じた」と語る。
「私は金融の知識なんて全くありませんでした。ただチームの方々は、身なりも立派で、話も洗練されていた。『あのプルデンシャルの支社で、トップの人たちが特別に教えてくれる話なんだ』と信じ込んでしまったんです」
関西在住の30代女性・A子さんは、父親の遺産など虎の子の資産、約1000万円をエクシアに投じ、全てを失った。「配当が止まった時、震える手で担当者に連絡しました。でも、返ってきたのは『会社(エクシア)の公式発表を待ってください』という冷淡な言葉だけ」
ちなみに、直氏はかつてSNSでこのエクシアのポンジスキーム疑惑やつながりを問われても『知らん。エクシアがポンジか分からない』とシラを切っている。

筆者が取材した別の被害者男性・B氏は、怒りで声を震わせる。
「彼らのSNSを見ましたか? エクシアから巨額のキックバックをもらっていたのか、高級寿司店で伊勢海老を食べ、シャンパンを開けてどんちゃん騒ぎをしている。(顧客を)『おれがエクシアにいれた』なんて豪語している動画まである。もし、本当に関与しているのだとしたら、あのシャンパンの一滴一滴が、自分たちのなけなしのお金だと思うと、腸が煮えくり返る思いです」
直氏のInstagramストーリーズより。「チーム直 皆まだぽんこつ」「全員おれがエクシアにいれたんで、好みの人を選んで投資してあげてくださいww」との記述が確認できる
なぜ、誇り高き「ライフプランナー」たちは道を踏み外したのか
元プルデンシャル生命の営業マンで、彼らが「プルゴリ」と言われる所以にもなっている、現在は実業家の芦名勇舗氏は2月10日、自身のXで、この問題を構造的な視点から分析している。
芦名氏は最大の要因として「手数料率に応じて売る商品が変わる」構造と、「優績者の影響力」を指摘する。「売れない営業マンに影響力はないが、優績者の転職や行動はかなり影響力が強い」。直氏のようなトップ営業マンが怪しい投資に手を染め、さらにプルデンシャルより稼ぐという噂が広まったことで、それが社内で正当化され、追随する者が現れてしまった形だ。
そして、最も深刻なのが社内の「自浄作用」の喪失だ。「昨今の『パワハラ』というワードがプルゴリたちの脳裏にさえよぎり、ダメなものはダメというお節介を言えなかったんじゃないかと思います」
プルデンシャルにとってみれば、直氏は最優秀な営業マンではあったが、結果的には扱いきれない存在になってしまっていた節もある。組織ぐるみでエクシアと癒着していたわけではないだろうことを思えば、ある種、会社側も少数の存在に振り回されたという見方もできなくはない。


だが、直氏やその配下の者たちを通じてエクシアなどの社員権を購入した被害者は、まぎれもなく「プルデンシャルへの信頼」があったからこそ購入を決断したのだ。それを思えば、やはりプルデンシャルのガバナンス欠如、社員教育の不徹底が招いた事件であることは否定しようがない事実であろう。
揺れる社内…飛び交う噂、積み上げたインセンティブがゼロと止まらない若手離職
不祥事の代償は、現場で真面目に働いていた社員たちにも重くのしかかっている。現在、会社側はインセンティブ体系の見直しを進めている渦中だが、社員たちの間では、ある“不穏な噂”が駆け巡り、動揺が走っているという。
「これまでライフプランナーが獲得してきたインセンティブがゼロになり、支給されなくなるのではないか、という話がささやかれているのです。支払われると考えていた報酬が、かつていた一部の先輩たちのせいで消えてしまう。社内で問題が言われるようになった前後で派手だった人たちは退職しています。
いまいる人は真面目にやってきた人たちです。それなのに、我々が影響をうけてしまう。これには多くの営業マンが落胆し、怒りを通り越して諦めの境地です。まだ会社の方針は決まったわけではないでしょうが、もしそうなったら、と思うと先行きが暗く、自分は退職を決めました」(社員)
こうした先行きへの不安からか、現在、社内では若手を中心に退職者が目立ち始めているという。
「これから会社にはコンプライアンス遵守など大きな変革が迫られます。その過程で、若手を対象としたレイオフ(一時解雇)が行われるのではないかという噂まで飛び交っている。かつて『完全歩合の実力主義』を求めて集まった若き野心家たちが、今、次々と会社を去ろうとしています」(同前)
最強の営業組織を誇ったプルデンシャルはいま信頼だけでなく、その屋台骨である人材までも失う危機に瀕しているようだ。
「兄貴肌で慕われていた」男の現在と、説明責任
一方、こうした問題の一つの要因ともなっている直氏はプルデンシャルを退社後、「EXE GROUP」なる会社を経営している。中核会社はExe insurance株式会社なる保険代理店会社で、現在代表取締役は違う人間が立っているが、挑戦者たちの「動画名刺」というWEBメディアでは、2024年12月の時点で、Exe insurance株式会社最高経営責任者CEOという肩書で直昌宏氏がインタビューにでていたことが記録されている。
直氏とは一体どのような人物なのか。筆者が話を聞いた関係者からは、意外な答えが返ってきた。
「とても魅力的ないい人でしたよ。いわゆる兄貴肌で、後輩の面倒見もよく、多くの人から慕われていました」彼を知る人々は、彼自身も紹介していた当時は、エクシアがここまでの詐欺的な商材となるとは想定していなかったのではないか、と口を揃える。
同グループのコーポレートサイトや直氏のSNSアカウントのプロフィールには「社員140名」「6期売上30億→10期100億へ」「Group CEO」といった華々しい言葉が並ぶが、エクシアの問題が広く報道された2024年からプルデンシャル生命の問題が取り上げられた現在まで、エクシア問題についての説明責任は果たされたとは言えない。
本誌は、直氏が事実上のトップを務めるとされるExe insurance株式会社に対し取材を申し込んだが、同社からは「取材は一切受け付けていない」との回答があった。また、直氏個人に対しても取材依頼および質問状を送付したが、期限までに回答はなかった。
年商100億円を目標に掲げ、いまなお顧客の信頼を背景に資産運用ビジネスを展開する企業や経営者である以上、過去に自らの名が取り沙汰された問題について「知らない」の一言で済ませる姿勢は、再考されるべきではないか。人は誰しも判断を誤ることがある。だが、その影響力が大きければ大きいほど、過去の経緯を自らの言葉で説明し、疑念に向き合う責任もまた重くなる。
とりわけ、看板や肩書きが顧客の信頼形成に直結する業界に身を置いてきた人物であればなおさらだ。説明とは、自己弁護のためだけにあるものではない。事実関係を整理し、誤解があれば正し、至らぬ点があれば認める。その姿勢こそが、現在の事業の正当性を支える基盤になる。
過ちは修復できる。しかし、沈黙は疑念を増幅させる。社会的影響力を持つ立場にある者には、その重みを引き受ける覚悟が求められているハズだ。
警察との連携、そして「元社員」への補償のハードル
会見でプルデンシャル生命は、現役社員による被害は全額補償する方針を示した。一方で、直氏のような元社員については、「外部の専門家が審査する補償委員会が必要だと判断した場合は全額を補償する」とするにとどめた。
さらに、JNNが報じたエクシア詐欺への加担疑惑について問われると、永瀬亮コンプライアンス統括は「報道は認識している。ご指摘の事案も含めて、必要に応じて個別に調査をする」と回答。篠原専務も「元社員の行為が詐欺など法令に抵触すると考えた場合は、警察への連携を行う」と述べた。
一見、前向きな対応にも聞こえるが、ここには大きなハードルがある。個別に調査し、「会社が必要だと判断」しなければ、補償の対象にはならないということだ。支社オフィスという会社の看板の下で行われた勧誘が、単なる元社員の個人的な暴走として切り捨てられる懸念は拭えない。
850億円が消えたエクシア事件。その片棒を担いだのが、世界最大級の保険会社のトップセールスたちだったという事実は、90日間の営業自粛程度で消えるものではない。
会社側がどこまで本気で“過去の膿”と向き合えるのか、その覚悟が問われている。



