
「辞めたいのに、言えない」。
その声を受け止めてきた退職代行サービスが、いま大きな岐路に立たされている。
業界最大手とされた退職代行「モームリ」の代表らが、弁護士法違反の疑いで逮捕された。違法行為は許されない。一方で、追い込まれ、自力で辞めることができなかった人たちが存在するのも事実だ。
退職代行は必要悪なのか。それとも、社会が生んだ歪みなのか。事件をきっかけに、その是非と業界の行方を考える。
退職代行「モームリ」社長逮捕 業界最大手が迎えた転機
スマートフォンの画面に表示された「退職代行 モームリ」の文字を、指先がためらいがちになぞる。
辞めたい。
そう思ってから、どれほどの時間が過ぎただろうか。
2026年2月、退職代行サービス「モームリ」を運営するアルバトロス社の代表らが、弁護士法違反の疑いで警視庁に逮捕された。弁護士資格を持たない立場で退職希望者を弁護士に紹介し、報酬を得ていたとされる。
同社はすでに昨年、家宅捜索を受けており、違法性を認識しながら事業を続けていた可能性も指摘されている。
業界最大手と目されてきた存在が、一転して刑事事件の当事者となった。事件は、退職代行業界そのもののあり方を突きつけている。
グレーゾーンに依存して拡大したビジネス
退職代行サービスは、労働者本人に代わって「退職の意思」を企業に伝えることに限れば、直ちに違法とはならない。
しかし、有給休暇の取得や未払い賃金、残業代の請求といった交渉に踏み込めば、それは法律事務となり、弁護士資格が必要となる。
モームリは、こうした境界線上に事業を築いてきた。対応が難しい案件を弁護士に“あっせん”し、キックバックを得ていたとされる構図は、まさに非弁行為の典型例といえる。
事件を受け、モームリは新規受付を一時停止した。
だが、これは一企業の問題にとどまらない。退職代行という仕組み自体が、法のグレーゾーンに依存して拡大してきた現実が、ここで一気に可視化された。
それでも「使うしかなかった人」は存在する
一方で、退職代行を必要とする人が確かに存在するのも事実だ。
上司から体型を揶揄され、怒鳴られ続けた末に精神的に追い詰められた女性は、「本当は自分で辞めたかった」と涙ながらに語っている。
東京商工リサーチの調査によれば、退職代行から連絡を受けた企業は7.2%、大企業に限れば15%を超える。利用者の中心は20〜30代だが、50代以上にも広がりつつある。
退職の自由は法律で保障されている。それでも「自分では言い出せない」と感じる人が後を絶たない。
この矛盾こそが、退職代行サービスが急拡大した背景にある。
「大迷惑だ」と憤る企業側の論理
退職代行を使われた企業側の反発は根強い。
「大迷惑の一言だ」「採用時に利用歴を調べたい」。そう吐き捨てる人事担当者もいる。
確かに、本人からの説明がないまま突然届く「退職の通知」は、企業にとって後味の悪いものだ。
ただし、経営者の中には「そこまで追い込まれる職場をつくっていなかったか」と自問する声もある。
退職代行は、若者の甘えなのか。
それとも、企業文化の歪みを映し出す鏡なのか。
評価は真っ二つに割れている。
業界は消えるのか それとも淘汰されるのか
今回の逮捕で、退職代行業界は確実に転換点を迎えた。
非弁行為を排除し、業務範囲を明確にできない事業者は淘汰されるだろう。一方で、弁護士による正式な退職支援は費用面のハードルが高く、すべての需要を受け止められるとは限らない。
退職代行は、かつての債務整理業者と似た道をたどる可能性がある。
悪質な業者は排除されるが、追い詰められた人の「最後の出口」としての役割は、形を変えて残り続ける。
劣悪な職場環境が存在する限り、「辞められない人」は消えない。
退職代行という存在もまた、完全には消えないだろう。



