
ひとり親世帯の多くは就労しているにもかかわらず、生活の安定にはなお壁がある。こども家庭庁の調査では、母子世帯の就業率は高水準にある一方、就労収入は200万円台にとどまる実態が示された。児童扶養手当や医療費助成などの支援制度は整備されているが、申請の難しさや自治体間の差により、十分に届いていないとの指摘も根強い。制度と生活のあいだに横たわる課題を整理し、支援を「確実に届く仕組み」へと変えるための論点を探る。
就労しても生活は安定せず──統計が示す現実
日本のひとり親世帯を取り巻く状況は依然として厳しい。こども家庭庁が公表した「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」(収入は令和2年の1年間)では、母子世帯の就業状況は86.3%だった。一方で、母自身の平均年間就労収入は236万円、平均年間収入(母自身の収入)は272万円にとどまっている。非正規雇用の比率が一定程度残ることや、子育てと仕事の両立が難しいことが、所得の伸び悩みにつながりやすい。
制度的支援の柱──児童扶養手当の役割
制度面では、児童扶養手当がひとり親世帯を支える中核的な支援となっている。こども家庭庁の制度概要によれば、令和7年4月からの手当額は、子ども1人の場合で月額「全部支給」46,690円、「一部支給」11,010円~46,680円で、所得に応じて決まる。
主なひとり親世帯向け支援制度
ひとり親世帯が利用し得る代表的な支援制度を整理すると、次のようになる。
| 支援名 | 概要 | 対象と金額の目安 | 申請先 |
|---|---|---|---|
| 児童扶養手当 | ひとり親家庭等の生活安定を目的とした手当 | 18歳到達後最初の3月31日までの児童(障害児は20歳未満)を監護。令和7年4月~は子1人で全部支給46,690円/月、一部支給11,010円~46,680円/月 | 市区町村(福祉・子育て支援窓口) |
| ひとり親家庭等医療費助成 | 医療費の自己負担を軽減 | 対象年齢や自己負担の扱い、所得制限は自治体ごとに異なる | 市区町村(医療・福祉担当) |
| 児童手当 | 子育て世帯全般への給付(ひとり親も対象) | 2024年10月分から拡充。所得制限撤廃、高校生年代まで延長、第3子以降は月30,000円、支給回数は年6回など | 市区町村(子育て担当) |
| 就労・資格取得支援 | 就労自立に向けた支援(訓練・相談等) | 対象要件や給付の有無・額は制度ごとに異なる | 自治体のひとり親自立支援窓口 |
| 住居・生活支援(自治体独自) | 家賃補助、入学準備、生活相談等 | 内容・金額は自治体ごとに異なる | 各自治体 |
制度はあるが、使い切れない現実
こうした制度は生活の下支えとして一定の役割を果たしている。一方で、すべての家庭が十分に活用できているわけではない。申請手続きの煩雑さや、制度内容が自治体ごとに異なる点が、利用のしにくさにつながっているとの指摘は多い。
代表的な家庭像が示す負担の重さ
都市部に住む母子家庭の例では、母親がパート勤務を続けながら児童扶養手当を受給しているものの、家賃や教育費の負担が重く、月末には生活費の調整を迫られるという。支援があっても、生活の不安定さが残る現実が浮かび上がる。
制度が届かない理由──支援と生活のあいだの溝
制度が十分に届かない背景には、いくつかの構造的な要因がある。第一に、制度設計の複雑さだ。所得や就労条件など細かな要件が重なり、制度全体を理解すること自体が負担になりやすい。第二に、自治体間格差である。独自支援の有無や水準の違いが、居住地による差として表れる。第三に、心理的な壁もある。支援を受けることへのためらいや周囲の視線が、申請を思いとどまらせる場合がある。さらに、申請主義が基本となっているため、情報にたどり着けない世帯は制度の存在すら知らないまま支援から漏れる可能性がある。
制度を「届く支援」に変えるために
課題は、制度の「有無」よりも「届かせ方」にある。相談と申請の動線を一本化し、利用可能な制度を一度で把握できる体制を整えることが重要となる。また、行政側が対象となり得る世帯へ能動的に案内を届ける仕組みは、取りこぼしを減らす。加えて、収入増で支援が急減する設計は就労意欲を損ねかねず、段階的な調整などの工夫が求められる。
「用意された制度」から「確実に届く支援」へ
ひとり親家庭が将来を描ける環境をいかにつくるか。統計が示す現実と、制度の届き方のギャップを直視し、雇用や住まい、子育て環境を含めて整備できるかどうかが、社会の包摂力を左右しつつある。



