
その年の世相を漢字一字で表す、年末恒例の「今年の漢字」が12日午後2時過ぎ、京都市東山区の清水寺で発表され、2025年を象徴する漢字に「熊」が選ばれた。主催する公益財団法人日本漢字能力検定協会によると、制度開始から30周年を迎えた今回は、全国から28万件を超える応募が寄せられた。
境内では恒例となっている大書揮毫が行われ、白い和紙いっぱいに墨で書かれた「熊」の一字が披露された。30年の歴史を刻んできた行事の節目に選ばれた漢字として、社会的な注目度は例年以上に高かった。
全国で相次いだクマ出没が象徴に
「熊」が1位に選ばれた背景には、2025年に全国各地で相次いだクマの出没と被害がある。山間部に限らず、市街地や住宅地にまで姿を現す事例が相次ぎ、人身被害や農作物被害、家畜被害が報告された。
ニュースやSNSでは連日のようにクマ関連の話題が取り上げられ、日常生活のすぐ隣にある脅威として、多くの人々の記憶に刻まれた。背景には、山林環境の変化や気候変動、人間の生活圏拡大といった複合的な要因があるとされ、単なる自然災害ではなく、人と自然の関係そのものが問われた一年だった。
応募理由には「クマのニュースを見ない日がなかった」「自然の怖さを身近に感じた」「人間社会の弱さを象徴している」といった声が多く寄せられたとされ、「熊」は2025年の不安と緊張感を端的に表す漢字となった。
2位から5位に並んだ漢字が映す世相の断面
今回の「今年の漢字」では、上位に並んだ漢字にも、2025年の社会状況が色濃く反映された。
2位は「米」だった。主食であるコメの価格上昇や供給不安、さらには国際情勢や食料安全保障への関心が高まったことを背景に、多くの支持を集めた。生活に直結する問題であるだけに、現実的な不安を映す漢字と言える。
3位は「高」だった。物価高、エネルギー価格の上昇、住宅費や教育費など、暮らしを圧迫する「高」が続いた一年を象徴している。賃金上昇が実感しにくい中で、家計への重圧が広く共有された。
4位に入ったのが「脈」である。この漢字については、大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」に由来するとの説明がされている。2025年は大阪・関西万博の開催年であり、国内外からの注目が集まった。生命やつながりをイメージしたキャラクター名に使われている「脈」は、万博という国家的イベントを象徴する漢字として支持を得た形だ。
5位は「万」だった。大阪・関西万博に関連する「万博」の文字としての意味合いに加え、経済や災害、国際問題など、物事が「万」単位で語られるスケールの大きな一年だったことを反映している。「万が一」への警戒感を込めた字として選んだ応募者も少なくなかったという。
これら上位漢字を並べると、2025年が不安と期待が交錯する一年だったことが浮かび上がる。
事前予想通り上位を占めた「熊」「米」「高」
発表前には、複数のメディアや漢字関連サイトで「熊」「米」「高」が有力候補として挙げられていた。結果的に、これら三字はいずれも上位三位以内に入り、世相分析が一定程度的中した形となった。
経済や国際情勢と並び、自然環境や生活不安が強く意識された一年だったことは、順位結果からも明らかだ。その中で「熊」が1位に選ばれたことは、自然の脅威が抽象的な問題ではなく、日常に直結する現実として受け止められていたことを示している。
30年続く「今年の漢字」という社会の記憶
「今年の漢字」は1995年、阪神・淡路大震災を受けて「震」が選ばれたことから始まった。以降、災害、事件、政治、スポーツ、文化といった出来事を一字で象徴する行事として定着してきた。
毎年12月12日の「漢字の日」に清水寺で発表される形式は、日本社会の年末風景の一部となっている。30周年を迎えた2025年に28万件を超える応募が集まったことは、この行事が今なお多くの人々の関心を集めていることを物語る。
過去10年の「今年の漢字」
過去10年に選ばれた漢字を振り返ると、社会の変化が一望できる。
2016年 金
2017年 北
2018年 災
2019年 令
2020年 密
2021年 金
2022年 戦
2023年 税
2024年 金
2025年 熊
災害、感染症、国際紛争、経済問題と続く中で、「熊」は自然環境と人間社会の関係が前面に押し出された漢字として、近年の流れの中でも特徴的な存在となった。
「熊」が刻む2025年の記憶
2025年の「熊」は、恐怖や被害だけを意味する漢字ではない。人間の活動が自然に与えてきた影響と、その反作用としての現象を突きつける象徴でもある。
一方で、「脈」や「万」に見られるように、大阪・関西万博という未来志向の国家的イベントが存在感を放った一年でもあった。不安と期待が同時に進行した2025年を、「熊」という一字が重く静かに総括している。
「今年の漢字」は、その年をどう記憶するかを社会全体で共有する装置である。「熊」という一字は、2025年という時代を語る際、自然との向き合い方と人間社会のあり方を問い続ける象徴として、長く語り継がれていくことになりそうだ。



