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ナイジェリア「拉致ビジネス」の拡大と国家緊急事態 治安崩壊が日本にも投げかける影

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拉致
Photo AC より

夜の静寂を破る銃声が、北部の村々を震わせた。子どもたちの叫びは闇に吸い込まれ、次々と姿を消していく。

ナイジェリアでは今、学校、教会、農村を問わず拉致が連鎖し、国家そのものが揺らぐ危機に陥っている。ティヌブ大統領が「国家緊急事態」を宣言するほどの事態に、国民は国への信頼を失いかけている。

この混乱は遠く日本にも波紋を広げ、JICAの交流事業をめぐる議論や移民政策への不安と重なりながら、新たな問いを突きつけている。

 

 

止まらない拉致 学校・教会・農村が次々と襲われる現実

北部の寄宿学校が襲撃された夜、校舎に残されていたのは散乱した机と、逃げ惑った生徒たちの靴だった。AFP=時事の報道によれば、女子生徒や教師300人以上が連れ去られたまま行方が分からず、家族たちは校門の前で名前を呼び続けている。

教会でも、農場でも、襲撃の手は止まらない。信者が礼拝を続けていた日に銃声が響き、北部の村では女性や子どもが次々に連れ去られた。バスターミナルでも、北部へ向かう乗客たちは「このまま帰省すべきか」と何度も自問し、長距離バスの運転士は「急ブレーキを踏むだけで乗客が立ち上がる」と語るほどだ。

 

大統領が「国家緊急事態」を宣言 治安の崩壊と国民の失望

ティヌブ大統領は、相次ぐ拉致に対応するため国家緊急事態を宣言した。警察官5万人の追加採用、要人警護部隊の治安任務への転換、森林警備隊の派遣など、異例の治安強化策が次々に打ち出されている。

欧州連合庇護機関(EUAA)が指摘したのは、警察官37万人のうち10万人以上が要人警護に割かれていた事実だった。地方では警察力が極端に不足し、国民は長く「守られない日常」を強いられてきた。

北部へ向かう女性看護師は、「国に裏切られたように感じる」と語り、治安崩壊が国民の心を深く蝕んでいる状況が浮かび上がる。

 

拉致は“ビジネス”へ 犯罪組織が支配する広大な森

ナイジェリアで起きている暴力は、宗教対立だけでは説明できない。北西部や中部の広大な森林地帯には「バンディッツ」と呼ばれる重武装の犯罪組織が拠点を構え、村を襲撃しては略奪や放火、身代金目的の拉致を繰り返している。

ナイジェリア最大の都市ラゴスの治安調査会社の報告では、1年間だけで拉致事件は997件、連れ去られた人数は4722人を超えた。要求された身代金は480億ナイラに及び、拉致が巨大な“産業”へと変貌したことが明らかになっている。

宗教施設や学校が狙われやすいのは、人質の数が多いほど交渉材料として価値が上がるからだ。信仰や思想ではなく、金銭の論理こそが暴力の根にある。

 

宗教ではなく国家の機能不全 過激派と貧困が絡み合う構造

ボコ・ハラムやISWAPといった過激派の存在は確かに脅威だが、今回の襲撃ではイスラム教の女子生徒も、キリスト教の信者も等しく標的になっている。宗教を問わず拉致が横行する背景には、国家統治の弱体化がある。

警察の腐敗、格差拡大、若者の失業、行政への不信感が複雑に絡み合い、“宗教”の名を借りた暴力が広がっている。イスラム教の経典には争いの否定や他宗教への敬意が記されており、過激派の行為は本来の教義と大きく乖離している。それでも暴力が止まらないのは、宗教ではなく国家が崩れつつあるからだ。

 

日本に飛び火した“ナイジェリア不信” JICAホームタウン構想の崩壊

ナイジェリアの情勢は、遠く離れた日本にも影を落とした。JICAが千葉県木更津市とナイジェリアを含む複数の自治体で展開しようとした「アフリカ・ホームタウン構想」がその象徴だ。
ナイジェリア側の発表が誤って拡散し、「大量のアフリカ人が日本に移住する」「特別ビザが設けられる」といった誤解がSNSで広がった。自治体には問い合わせが殺到し、構想はわずか数週間で白紙撤回された。

今回の拉致事件のニュースを受け、「この国と連携しようとしていたのか」との声や、「撤回されて良かった」という意見がネット上で相次ぎ、日本社会の移民政策への不安が改めて浮き彫りになった。

 

ナイジェリアは“遠い国”ではない 治安と統治の危機が日本に示すもの

ナイジェリアの混乱は、日本にとって無関係ではない。読者から寄せられたコメントには、「政治不信や格差拡大が進めば、日本も同じ道を辿りかねない」という危機感が多く見られた。

国家の統治力が弱まり、治安が崩れ始めたとき、社会がどれほど急速に変質するか。ナイジェリアの現状は、その未来の姿を映す鏡でもある。

拉致された子どもたちの名を呼び続ける家族の声は、国を超えて胸に迫る。暴力の連鎖を止めるための道筋は見えていないが、国家の弱体化が個人の生活をいかに脅かすかを示す象徴として、ナイジェリアの危機は国際社会全体への問いとして突きつけられている。

 

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ライター:

広告代理店在職中に、経営者や移住者など多様なバックグラウンドを持つ人々を取材。「人の魅力が地域の魅力につながる」ことを実感する。現在、人の“生き様“を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。

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