裏取りなしで「中国の言い分」を垂れ流すオールドメディアの自殺行為

「トランプ氏が台湾問題で高市首相にクギを刺した」。26日から日本の大手メディアが一斉に報じたこのニュース。だが、これは米紙の中国人記者が仕掛けた典型的な「ミスリード記事」であることが判明した。なぜ彼女はフェイクまがいの記事を書いたのか。そこには2020年の「ある事件」と、歪んだ取材構造があった。
また、情報の出所も怪しい記事を、なぜ日本のメディアは検証もせずに拡散してしまうのか。
木原稔官房長官は11月27日午後の記者会見で、25日の日米首脳電話会談に関する報道でトランプ大統領から台湾の主権に関する問題で高市首相に中国政府を挑発しないよう助言があったとの記述を否定。
報道した米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)に対して記事の取り下げを依頼していることを明かした。
北京取材ができない「中国担当トップ」
問題の発端は、WSJが報じた〈トランプ氏、日本の首相に台湾に関する発言を控えるよう要求〉という記事だ。記事の筆頭著者は、WSJのWei Lingling(魏玲霊)記者。彼女の肩書は「中国担当首席記者」だが、記事のクレジットには奇妙な一文がある。
〈New York, via Beijing(北京を経て、ニューヨーク)〉
なぜ中国担当のトップが、現場の北京ではなくニューヨークにいるのか。そこには決定的な理由がある。 時計の針を、2020年3月に戻そう。
2020年3月「記者追放」の真実
2020年3月18日、中国外務省は、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、そしてウォール・ストリート・ジャーナルの米主要3紙の記者に対し、「10日以内の記者証返納」を命じた。事実上の国外追放処分である。
当時、トランプ政権(第1期)が在米中国メディアの人数制限を行ったことへの、中国側の激しい報復措置だった。BBCなどの報道によれば、当時少なくとも13人の記者が対象となり、その中にWei Lingling氏も含まれていた。彼女は生まれ故郷である中国を追い出され、香港やマカオでの活動すら禁じられたのだ。
一見すると、彼女は「中国共産党と戦って追放された悲劇のヒロイン」に見えるかもしれない。だが、国際情報のプロの見方は違う。
「現地を追放されたことで、彼女の取材ルートは大きく歪んだことが推察されます。北京の安保担当者や軍部の生の声は聞けない。結果、彼女が頼るソースは、ニューヨークの『ウォール街(金融界)』や、昔なじみの『中国商務省(貿易担当)』のラインに限られた。つまり、彼女の世界観は『安全保障』よりも『カネ(貿易)』が全てになってしまったのではないか」(国際ジャーナリスト)
「貿易(ディール)の邪魔」をする高市が許せない
Wei記者の著書『Superpower Showdown』は、米中の貿易戦争をテーマにしている。彼女にとっての米中関係とは、あくまで「ビジネス」なのではないかと邪推したくなる。そこへ登場したのが、安全保障を重視し、台湾有事に警鐘を鳴らす日本の高市早苗首相だ。
「貿易(ディール)至上主義」のWei記者にとって、あるいは彼女の背後にいるウォール街や中国の貿易派にとって、高市首相の言動は米中のビジネスを邪魔する「ノイズ」でしかない。
だからこそ、彼女は今回の記事で、匿名の「日本政府関係者」という怪しいソースを使い、「トランプは(ビジネスのために)中国を刺激したくないと思っている。だから高市は黙っていろ」という、彼女自身の願望、ひいては習近平政権が最も望むストーリーを構築したのではないだろうか。
思考停止で「広報紙」と化した日本のメディア
最も罪深いのは、こうした記者の背景を一切検証せず、記事を拡散した日本のオールドメディアだ。
時事通信はWSJと提携関係にあるが、今回はあまりにお粗末だった。「中国人記者」というバイアス、そして「5年も現場(北京)を踏んでいない記者」が書いた記事であることを無視し、〈トランプ氏、高市首相に抑制要求か〉という見出しで速報を打った。これに共同通信が続き、テレビ各局が「高市外交の失敗」と騒ぎ立てる。
これは正しい報道ではなかろう。「ソースロンダリング(情報の洗浄)」だ。中国当局に物理的に追放されながら、皮肉にも「北京が喜ぶ記事」を書き続ける記者。そしてそれを有難がって翻訳する日本のメディア。
この歪んだ構造が作り出した、さながらフェイクニュースとでも呼びたくなるものに、我々はこれ以上騙されてはならない。高市首相の発言を封じ込めたいのはトランプではなく、その背後でほくそ笑む北京と、思考停止した日本のマスコミなのだ。



