
熊本市北区植木町に、新たな店舗が静かに幕を開けた。「BUDDICA DONUTS」。中古車販売を手がけるBUDDICAがプロデュースしたドーナッツ店で、オレンジ色のロゴが国道沿いの景色の中で異彩を放っている。中古車業界から離れた分野での挑戦に、初日から多くの来店客が訪れた。
SNS発の人気経営者が新業態に踏み出した背景
BUDDICA代表の中野優作氏は、SNS総フォロワー100万人を超える発信力で知られる。YouTubeでも率直な語り口が支持され、若い層を中心に一定の影響力を持つ存在だ。
中野氏の経歴は独特だ。中卒で土木作業員として働いたのち、営業職を経て独立し、中古車販売会社「BUDDICA」を創業。業界初の通販型モデル「BUDDICA DIRECT」を構築し、4年連続で全国販売台数1位を獲得した。企業の年商は135億円を超え、今期は180億円に達する見込みとされている。
その歩みの裏側を綴った著書『成長以外、全て死』は、自らの実体験をもとにした50の仕事哲学をまとめたもので、中野氏の発信スタイルの根幹を形成している。読者に向けて「行動しろ」「人生は変えられる」と訴える同書は、自己啓発書として広い層に支持されてきた。
異業種参戦に寄せられた賛否
今回のドーナッツ事業は、SNSで発表されると同時に大きな反響を呼んだ。
「なぜドーナッツなのか」「本業との関連性が見えにくい」といった疑問の声がSNSを中心に集まった一方、新たな挑戦への関心も寄せられた。
中野氏はこうした反応に対し、冷静に受け止める姿勢を示している。
「高校中退のときも、土木から営業に移るときも、起業したときも、すべて“うまくいかない”と言われてきた」と振り返り、「それでも事業は黒字で積み上げてきた」と語る。新店舗への批判的な声についても、「挑戦を続けると、必ず懐疑的な声は出るものだ」とする。
SNSでは「本業以外に手を出すと危険だ」といった意見も少なくなかったが、中野氏は「外野の声よりも現場と仲間を信じて進む」と述べており、今回の事業もその一環と位置づけているようだ。
1年かけて準備した共同プロジェクト
「BUDDICA DONUTS」は1年がかりで準備されたプロジェクトだという。
運営は熊本で飲食事業を展開するウィナーズ(代表取締役:鋤野貴也氏)。
商品開発は、将軍バーガー代表の本田大輝氏が担当し、シグネチャーメニュー「BUDDICA DONUT」を共同開発した。
本田氏はSNSで、「320円で“物理的な食感”にこだわったドーナッツ」と説明。軽い食感と甘さを抑えた味わいに仕上げたという。

ブランドデザインはアパレルブランド「VANQUISH」の創業者・石川涼氏が携わり、レトロアメリカンを基調としたロゴや店舗の雰囲気が整えられた。
“目的地をつくるカフェ”というコンセプト
ドーナッツ店は、BUDDICAのスローガン「CAR and LIFE.」を起点に構想されたものだという。中野氏はSNSで、「BUDDICAはただ車を売る会社ではなく、カーライフの価値をつくる会社である」と発信している。
「ドライブの目的地をつくりたい」
中野氏はそう語り、今回の店舗がカーライフの延長線上にある取り組みであると説明する。
店内では、オリジナルのドーナッツに加え、H COFFEE LABORATORYの焙煎豆を使ったコーヒーやNYチーズケーキなど、幅広いメニューを提供。
ガレージ風の空間は、男性客や家族連れも訪れやすい雰囲気を意識した設計となっている。
開業初日の店先に立つ中野氏
22日のオープン当日、中野氏は自ら店頭に立ち、来店客と交流する姿が見られた。SNSでも、「店頭でアルバイトとして立つ」と予告しており、その言葉どおり、現場での接客に参加していた。
新業態への意気込みを語りつつ、「ドライブがてら遊びに来てもらえると嬉しい」と来店を呼びかけていた。
異業種参入は成功するのか
現在は初日の賑わいと話題性で多くの人が訪れているが、この挑戦が長期的に成功するかどうかは、まだ判断できない。飲食業界は競争が激しく、景気やトレンドに左右されやすい側面を持つため、継続的な顧客獲得には相応の難度もある。
ただ、BUDDICAがこれまで新しいビジネスモデルを構築し、成長を続けてきたことも事実だ。今回のドーナッツ事業が、カーライフの延長にある“目的地づくり”として定着するのか。それとも畑違いの難しさに直面するのか。回答が出るのは、もう少し先になりそうだ。



