消えた決済履歴と謎の“口座凍結”告知 全国の店舗が青ざめた夜

11月上旬、風俗業界の多くの店舗で“ある異変”が同時に起きた。
いつも通り決済代行会社スマートペイメントの管理画面を開いた店長たちの目に飛び込んできたのは、売上ではなかった。
「諸事情により決済システムがご利用いただけません」
「弊社の口座が凍結してしまった為、ご精算ができない状態でございます」
そして、もうひとつの重大な異変、決済履歴が丸ごと消えていた。
画面は静まり返り、何度更新しても売上は戻らない。電話もメールも沈黙したままで、加盟店は「何が起きているのか」を知る方法がなかった。
SNSでは、Z李氏が「スマートペイメントが夜逃げして売掛金を入金せずフルバックレ。被害は5〜10億円」と投稿し、一気に事態が表面化した。
「飛んでいません。払う意思はあります」 会社が残した“言い訳文”の違和感
異常な沈黙の翌日、管理画面に謝罪文が掲示された。そこには、まるで火消しを試みるかのように「飛んでいません」「払う意思はあります」と書かれていた。
しかし、その文面が加盟店の不安を和らげることはなかった。
むしろ、決済履歴を消した状況での「信用して待ってください」という訴えは、現場の怒りを逆撫でしただけだった。
全国の経営者の間では、「これは時間稼ぎだ」「もう戻ってこないのでは」という疑念が膨らんだ。
依存せざるを得ない業界構造 風俗店の生命線を握っていた“最速入金”の落とし穴
風俗業界は一般の決済会社から審査を断られることが多く、使える決済会社は限られている。
スマートペイメントは、そうした“喉の渇き”を知るかのように、最短入金、最安手数料、24時間サポートをうたい、加盟店を急増させた。
その利便性ゆえに依存度が高まり、結果として今回の停止が業界全体を直撃した形だ。
ある店主は、「選択肢がないからこそ依存が深くなってしまう。だから今回のようなことが起きると逃げ道がない」と語る。
今回の事件は、一社のトラブルに見えて、実は業界全体の構造的リスクを映し出す鏡でもあった。
「許せません。人生を壊された気分」 被害者たちの叫びが止まらない
被害者の声は、怒り、絶望、焦燥、そして沈黙した自責の念が入り混じるものだった。
大阪のぽっちゃり系店を営むたむちゃん氏は、SNSで以下のように心境を吐露している。300万円を失った。「昨日も今日も、対応に追われて地獄のようでした」と語ったあと、続けた。
「正直、許せません。300万円って、うちの規模だと5〜6ヶ月分の利益です。スタッフに給料を払えなくなる恐怖は本当にきつかった。経営判断の責任が全て自分に返ってくるのが苦しい。でも、それでも許せない気持ちが勝っています」
五反田で店を運営する“代表すず”氏は、訴訟を断念した理由を語った。「弁護士費用を払ったらマイナスだから」。
しかし、続けた言葉には、静かな怒りがにじんでいた。
「本当に悔しいし、許せないです。お金が戻らなくても、せめて説明だけはしてほしい。隠れて逃げるのは卑怯すぎます」
ある地方店のオーナーは、泣きながらこう訴えたという。
「家賃も払えない。スタッフに『給料大丈夫ですか』と言われた時は、悔しくて言葉が出なかった。許せない。何より、あの日常を壊されたことが許せない」
“許せない”という言葉は、まさに被害者たちの共通言語になっていた。
集団訴訟が始動、しかし回収の望みは薄いという冷酷な現実
グラディアトル法律事務所の若林翔弁護士は、被害者らと連携し、会社および代表者個人を相手取る集団訴訟の準備を進めているようだ。
銀行口座の照会、財産開示手続き、虚偽説明があれば刑事告発も辞さない構えだ。
しかし弁護士自身が「回収できない可能性は極めて高い」と述べており、冷酷な現実を強調する。
裁判に勝っても、財産がなければ1円も戻らない。破産申立が行われれば、すべては霧散する。
それでも被害者たちは、「せめて姿を見せてほしい」「説明だけでもしてほしい」と訴え続ける。
お金以上に、誠実さが欠落したことへの怒りが深い。
姿を見せない代表、消えた決済履歴、残された沈黙
スマートペイメントの公式説明は「口座凍結」「諸事情によりオフィス閉鎖」「連絡が取れない」というパズルのような断片だけだ。代表の筒渕悟至氏は沈黙を貫いたまま、公的な場に現れていない。
被害者のひとりは、「5年かけて積み上げた利益が一瞬で消えた。こんな壊れ方をするなんて思いもしなかった」と語った。
未払い総額は5〜10億円とも言われ、被害者は日々増え続けている。
この事件は、ただの“夜逃げ疑惑”にとどまらず、業界の脆弱さをあぶり出す象徴的な出来事となった。



