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「グエー死んだンゴ」から生まれた奇跡 北大生・中山奏琉さんが残した“8文字”が動かした数千万円の寄付

コラム&ニュース コラム
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中山奏琉さんXより

「グエー死んだンゴ」。
軽妙なネットスラングの8文字が、いま日本各地の医療機関や研究団体に温かな波紋を広げている。
北海道大学の学生・中山奏琉(かなる)さんが亡くなったのは10月12日。希少がん「類上皮肉腫」と闘いながら、生前に予約投稿したこの一文がX(旧Twitter)に残された。
そのユーモアと勇気が、多くの人の心を動かし、寄付という“善意の輪”を生んでいる。

 

 

「グエー死んだンゴ」たった8文字の最期のつぶやき

10月14日午後8時。
Xのタイムラインに突如現れた「グエー死んだンゴ」という一文は、静かに、しかし瞬く間に拡散した。
それは亡くなった北海道大学生・中山奏琉さんが、生前に予約していた最期の投稿だった。
彼のアカウントを見守っていたフォロワーの間に広がったのは、悲しみと笑いが入り混じる不思議な感情だ。
コメント欄には、ネットの定型句「成仏してクレメンス」の言葉が並び、ひとつの“儀式”のような連帯が生まれていった。

 

「香典代わりに」広がった寄付の輪

やがてXでは「香典代わりに寄付した」という報告が相次ぐ。
北海道がんセンター、国立がん研究センター、がん研究会、日本小児がん研究グループ──
がんと闘う人々を支える団体に、見知らぬ人々の想いが次々と届いた。

朝日新聞によると、北海道がんセンターへの寄付は10月14~31日の間に1078件・計412万3千円。
前年の同時期は0件だったという。
さらに、がん研究会では約2千件・計1千万円、小児がん研究グループでも約800件・300万円超が集まった。

“グエー死んだンゴ”を合言葉に、SNSの匿名性を越えてつながる善意の連鎖。
投稿からわずか数週間で、寄付総額は数千万円規模に達した。

 

基礎科学へと広がる支援

その波は、がん研究にとどまらなかった。
横浜市の「大隅基礎科学創成財団」には、理事長でノーベル賞受賞者の大隅良典さんも驚くほどの寄付が殺到した。
「基礎科学も大事にしようよ」と呼びかける投稿に共感が広がり、わずか1週間で約1460件・710万円が集まった。
財団の公式Xには、「科学の発展につなげることでお悔やみにかえたい」との投稿。
「心より成仏してクレメンス」という言葉で締められたその文面には、人々の思いが静かに滲んでいた。

 

“やらない善よりやる偽善”父が語る息子の最期

「最後まで自分らしく笑わせたい。そんな軽い気持ちだったと思います」。
そう話すのは、父の和彦さん(48)。
闘病中もボーカロイド同好会の仲間に囲まれ、ギターを弾き、笑顔を絶やさなかった息子の姿を思い出す。

「善意が偽善だと言う人もいますが、私は『やらない善よりやる偽善』だと思います。
息子の言葉で誰かが動いてくれたなら、それで十分です」。

彼の言葉には、悲しみを超えて誰かを想う静かな誇りがあった。

 

ネットが生んだ“新しい弔い”のかたち

SNSで共感が拡散し、寄付や献血といった行動に変わる。
それは、匿名のままでも心がつながる時代ならではの弔いだ。
心理学者の原田隆之教授(筑波大学)はこう指摘する。
「笑いと死が共存する“両価的感情”が、人々の共感を呼び、悲しみを行動に変える力を持った」。

誰かの死を悼む気持ちが、別の命を救う行為へと変換される。
それは、インターネットという無機質な空間のなかに、人の温度を取り戻す営みでもある。

 

その8文字が遺したもの

「グエー死んだンゴ」。
それは、ひとりの若者が最期まで「自分らしさ」を貫いたユーモアの証であり、
そして、見知らぬ誰かの命を支える“希望の種”にもなった。

寄付という行為の先にあるのは、哀しみではなく未来だ。
彼の言葉が導いた善意の輪は、いまも静かに広がり続けている。

 

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ライター:

広告代理店在職中に、経営者や移住者など多様なバックグラウンドを持つ人々を取材。「人の魅力が地域の魅力につながる」ことを実感する。現在、人の“生き様“を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。

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