
「私は悟りを開きました。世の中の全てに意味などないことを完全に自覚しました。」
そうXに投稿したのは、YouTubeで人気の“交通系YouTuber”スーツ氏だ。鉄道旅のレポート動画や独特の語り口で知られる彼が、突然「社会人として死亡した」と語り、「この世のすべては幻想である」と宣言した。
この一連の投稿が18日にX上に現れると、SNSは騒然となった。
スーツさん、株式会社AS/観光誘致株式会社を設立した“交通の語り部”
スーツ氏(本名非公開)は、1997年生まれのYouTuberであり実業家。鉄道高校として知られる岩倉高校を卒業後、横浜国立大学経営学部に進学。2016年にYouTube活動を始め、スーツ姿で全国の鉄道を旅する動画で人気を集めた。YouTubeの「スーツ 旅行 / Suit Travel」は2025年10月19日現在、111万人の登録者を誇る人気Youtuberだ。
その後、個人活動を越えて観光・交通業界との連携を進めるため、株式会社AS(現・観光誘致株式会社)を設立。公式サイトでは、冒頭で次のように自己紹介している。
「こんにちは、スーツです。株式会社ASは、私、交通系YouTuberのスーツが、個人の範囲を超えて観光業界・交通業界など各業界との協業をするべく設立しました。PRや広報の手段としてスーツを検討するにあたっての簡単な自己紹介をまとめました。」
このシンプルな一文に、彼の姿勢がよく表れている。鉄道という枠にとどまらず、「移動を通して社会を見つめる語り部」としての立場を明確にしていた。
公式サイトでは、YouTubeを活用した地域PR、交通キャンペーン、講演、メディア出演などの実績を紹介。NHK「クローズアップ現代+」やフジテレビ「99人の壁」、テレビ東京「チマタの噺」など、地上波番組への出演歴もある。
スーツという名前の由来も、学生時代に「スーツしか着るものがなかった」ことから。大学入学時のスーツ姿のまま全国を旅し、その姿が“トレードマーク”となった。
現在では、自らの会社を通して交通や観光を支援するPR事業を展開している。
「10月15日に悟りを開いた」 社会・価値・心の存在を否定
発端は10月18日未明の投稿だった。スーツ氏はこう書いた。
「2025年10月15日に私は悟りを開き、世の中の全てに全く『意味』などないことを完全に自覚しました。そのため、あらゆる意欲、執着、規範、迷い、悩み、喜びなどを手放しました。それらは全て幻想や集団催眠などの類いで、最初から存在しなかったのだと理解したのです。」
その後も立て続けに投稿を重ね、「社会人としての私は死亡しました」「この世の価値は全て幻想である」「理解される必要もない」といった言葉を残した。
「私は全てを説明しています。これを理解するかどうかは読み手の問題で、私の問題ではありません。世の『問題』はすべて幻想であると完全自覚しました。わかってもらう必要も、わかってもらわない必要もありません。」
「私は自分の発言が理解されることに価値を感じなくなりました。発言することにも価値を感じませんし、発言しないことにも価値を感じません。今は発言していますが、そのうち静かになる可能性があります。」
これまでの論理的な発信とは異なり、存在論や虚無主義を想起させる内容に、コメント欄は一時騒然となった。
「私は死なない」 “遺伝子の設計”に触れた投稿も
一連の投稿の終盤で、彼は自らの生命についても言及している。
「今後、私や私の周辺がどうなるのかはわかりません。ただ、私の体は存在しており、私の体は自分の生命を守るように設計されているでしょう。ですから、私が死亡したり何かを破壊したりすることは考えにくいです。」
「そういうことは起こらないように私の体は設計されています。皆さんは心配するかもしれませんが、心配するようなことは何も起こらないと思います。」
この文面が投稿されると、「哲学的覚醒なのか」「体調による錯乱なのか」といった憶測が一気に拡散した。
「錯乱して投稿」と謝罪 会社の営業継続を明言
およそ3時間後、スーツ氏は謝罪文を投稿した。
「私が先ほど錯乱して投稿したことで、皆さまにご迷惑をおかけしてしまった可能性を鑑み、心配しております。観光誘致株式会社は今後も誠心誠意営業いたしますので、なにとぞよろしくお願いします。大変申し訳ございませんでした。」
さらに「弊社へ案件をご発注頂ければ幸いです」と自身の会社サイト(kanko.inc)を案内。最新の写真も公開し、冷静な対応を見せた。
SNSでは「悟りと営業が同居している」「現代的すぎる宗教観」と皮肉る声も相次いだ。
SNSの反応「最終形態説」「新章の前触れ」「ガチで心配」
X上ではファンや視聴者の間で議論が白熱した。
「スーツ背広の動画を8年前から全部見てるけど、これは乗っ取りでも病気でもない。彼の最終形態だ」
「本命:チャンネル新章、対抗:アカウント乗っ取り、大穴:新興宗教設立」
「やめてね、ガチで病んでたら」
過去には体調不良を訴える投稿もあった。本人によれば、10月3日ごろスイス・バーゼルで体調を崩し、帰国後の検疫でインフルエンザと診断されたという。
SNS上では「高熱による錯乱では」「精神的な転換点か」といった憶測が飛び交っている。
鉄道から“無”への旅路 理性の旅人がたどり着いた境地
鉄道を愛し、社会を論理的に分析してきた青年が、ある日突然「意味はない」「価値は幻想」と言い切った。
その言葉は危うくも静謐で、どこか達観した響きを持っている。
2025年10月15日を境に、彼は何かを見たのか。
それとも、見えないものを追う旅に出たのか。
鉄道の終着駅の先に、彼の“悟り”が待っているのかもしれない。