
10月4日の夜中、アメリカ・ニューヨークの地下鉄で15歳と18歳の少女が意識不明の状態で発見され、その後死亡が確認された。ニューヨーク市警は「地下鉄サーフィン(トレインサーフィン)」中の事故の可能性があるとして調査を進めている。
「地下鉄サーフィン」とは何か
「地下鉄サーフィン(トレインサーフィン、トレインホッピング)」とは、走行中の電車の屋根や連結部など、通常は立ち入れない場所に乗ったりしがみついたりする行為だ。
ネット上の「地下鉄サーフィン」の動画を観ると、走行中の電車の屋根に立ち上がり、両手両足を開いてバランスを取り、時にはジャンプをしてスリルを味わっている様子が窺える。
まるで映画のスタントのようにも見えるが、現実では足を滑らせたりよろめいたりしたら一瞬のミスで即死の極めて危険な行為であり、自殺行為と言っても良いだろう。
ニューヨークの地下鉄は、頭上に電線はない代わりに、線路脇に高圧の第三軌条(サードレール)が設けられている。ここにはおよそ600ボルトの電流が流れており、もし足を滑らせて落ちれば感電死は確実だ。さらに、トンネルの天井が非常に低いため、屋根の上に立ち上がると鉄骨や標識に激突する危険もある。
いつから流行った?“SNS時代の度胸試し”
この行為自体は、実は古くから存在する。海外では20世紀初頭から“Train Surfing”と呼ばれ、都市の若者やストリート層の「若者の危険な遊び」「度胸試し」として密かに行われてきた。
だが、再び火がついたのはSNSの時代だ。
ニューヨークでは2023年以降、若者が走行中の地下鉄の屋根に乗る動画を投稿するケースが急増。
「#SubwaySurfing」のハッシュタグは一時、数千万回再生を記録した。
MTA(ニューヨーク都市交通局)によると、2024年には6人が死亡、180人以上が逮捕されたという。
“命を賭けたスリル”が、SNS上でバズを生む「挑戦コンテンツ」になってしまったのだ。
承認欲求に突き動かされ、危険行動へ
心理学的には、10代特有の「自己顕示欲」「集団内の競争」「リスクの過小評価」が背景にある。
「バズりたい」「仲間にすごいと思われたい」──その軽い一歩が命取りになる。
さらに、ニューヨークの地下鉄は深夜も運行し、駅員のいない区間も多い。
監視の目が届きにくい環境が、“死の遊び場”を生み出しているとも指摘されている。
MTAの地下鉄サーフィン対策と課題
ニューヨーク市のMTAは、2024年からドローン監視を導入。「トレインサーフィンを見つけ次第、即警察へ通報する」と発表した。だが、物理的な対策には限界がある。夜間や地上区間は監視が難しく、「いたちごっこ」が続いているのが現状だ。
一方で、学校での啓発やSNS上での警告キャンペーンなど、教育的アプローチの強化も始まりつつある。MTAは「スリルは一瞬、死は永遠だ(The thrill is brief, death is forever)」というスローガンを掲げ、若者への訴えかけを強めている。
エクストリームセルフィー、ルーファー…止まらない「命知らずブーム」
過激なものほど、いいねやコメントは付く。そんなバズを追い求めるうちに、若者たちは「リアル命懸けのエンタメ」にのめり込んでいく。「地下鉄サーフィン」の他にもバズ狙いの命知らずブームがある。
・エクストリームセルフィー
高所や危険な場所で自撮りをすることを「エクストリームセルフィー」と呼ぶ。BBCニュースによると、2018年に発表された調査において、2011年から2017年の間にセルフィーで259人が死亡したことが分かったそうだ。魅力的な一枚を求めて、人々は溺死、交通事故、落下事故等で命を落としたそうだ。
・ルーファー
高いビルの屋上や壁面を歩いたり走ったりする動画を投稿する人たちを「ルーファー」と呼ぶ。2017年12月には、62階のビルの屋上で命綱を付けずに懸垂する動画を撮影していたルーファー、中国のヴォン・イオンニン氏が転落死した。
最後の一瞬、彼は何を考えただろうか。「なんて馬鹿なことを、こんなことしなければよかった」と思ったのではないだろうか。
命より価値のある「承認」なんて無い
今回の事件の原因が本当に地下鉄サーフィンだったとすると、地下鉄の屋根の上、吹き荒れる風の中で笑っていた彼女たちは、きっと「まさか自分が死ぬなんて」と思っていなかっただろう。
だが、その“まさか”は一瞬で起こる。わずか数十秒の映像を撮るために、二人の人生は終わったのだ。
「すごいことを成し遂げた」と思われたくて死ぬなんて、なんと愚かで滑稽なことか。
安易なバズに飛び付かず、地道に努力して何かを達成した方がかっこいいし実りがあるに決まっている。
一時の欲望で人生を棒に振らないように、くれぐれもよく考えて行動してほしい。