
アウトドアブランド大手のスノーピークが経営トップ交代を発表した。新社長に就任したのは、スターバックスでの経験を持ち、海外事業を牽引してきた水口貴文氏(52)。発表会では、2023年の純利益100万円から一転、2025年には9億円を見込む「驚異の900倍のV字回復」を示し、会場を驚かせた。ブランド哲学「人間は自然の一部」を軸に、「不易流行」を掲げた新たな成長戦略を提示し、キャンプブーム後の市場に挑む姿勢を鮮明にした。
キャンプブーム終焉説を払拭した発表会
アウトドアブランド大手のスノーピークは、新社長就任を機に関係者向け発表会を開催し、業績回復と今後の方針を明らかにした。壇上には、現代表取締役社長の山井太氏と後任の水口貴文氏(52)が並び、笑顔を交えて経営の舵取りを語った。
2023年12月期決算で純利益がわずか100万円にとどまり、「キャンプブームは終わった」との見方が一部メディアで広がった。しかし、2025年12月期は純利益9億円を見込み、実に900倍のV字回復となると強調。山井氏は「キャンプ大復活です」とユーモアを交え、会場を沸かせた。
水口新社長の横顔と経歴
水口貴文氏は、早稲田大学を卒業後、消費財メーカーで経験を積み、その後スターバックス・コーヒー・ジャパンに入社。店舗運営からマーケティング、ブランド戦略まで広く関わり、顧客体験を重視したマネジメントを実践した。
スターバックスで培った「体験価値を軸としたブランド経営」の発想は、その後のキャリアに大きな影響を与えた。2016年にスノーピークに加わり、海外事業本部長や取締役を歴任。韓国での直営キャンプフィールド開業や米ロングビーチ拠点の成功を牽引し、グローバル展開を支える実務派リーダーとして社内外から厚い信頼を得ている。
発表会では「人間は自然の一部」というスノーピークの哲学を基盤に、さらに顧客体験を磨き上げる姿勢を鮮明にした。スターバックス時代に学んだ「ライフスタイルそのものを提案する」視点をアウトドアに応用することで、ブランドを次の成長軌道へと導く決意を示した。
業績回復の裏側 経費削減と直販強化
山井氏は業績回復の背景として「過去2年間で約30億円の経費削減」「日米における直販比率の70%への改善」「在庫額の45.7%削減」などを挙げた。国内店舗の平均売上は2023年比で18.6%増加し、効率化と販売チャネル改革が奏功した形だ。
こうした基盤強化を受け、同社は5ヶ年成長計画を発表。グローバル全体で年10%以上、アパレル事業では年15%以上の成長を目標に掲げた。
「不易流行」をキーワードに新方針
水口氏が打ち出したキーワードは「不易流行」。変えてはいけないものを深化させながら、時代に合わせて挑戦すべきものには積極的に取り組む姿勢を示した。
「不易」としては、日本人の自然観を背景にしたキャンプ文化の深化を継続。「流行」では、新しい体験価値の提供に注力する。その象徴が2026年に発売予定の「エアフレームシェルター」だ。市販の電動ポンプを用いて約5分で設営可能となり、初心者の参入障壁を下げる製品として注目される。
さらに新業態「スノーピークグラウンズ」を展開予定。キャンプ場だけでなく周辺の自然や文化を楽しめる複合施設として設計され、宿泊施設も併設することで、未経験者にも門戸を広げる。また「キャンププラス」と題し、北海道・空知川でのフライフィッシングやアウトドアサウナといった新サービスも打ち出した。
グローバル展開とアパレル再構築
海外展開も順調だ。韓国では2023年比131%、米国では138%の売上増を記録。米ロングビーチのキャンプフィールドは「タイム誌」の「World Greatest Places」に選ばれ、ブランドの国際的評価を高めている。2026年には米シアトルに新店舗を開設する予定で、中国市場では2030年までに120店舗の展開を目指す。
アパレル事業も「ギアと並ぶメインエントランス」と位置づけ、世界的クリエイティブディレクターとの協業により新ラインを始動予定。詳細は後日発表されるが、ギアとアパレルを融合させた新コンセプトは注目を集めそうだ。
スノーピークは、MBOを経て水口新社長の下で新たな一歩を踏み出した。数字上の「驚異の900倍のV字回復」は強烈なインパクトを残し、スターバックスで培った顧客体験重視の経営哲学と「不易流行」の戦略が、アウトドア市場でどこまで浸透するかが注目される。キャンプブーム後の持続的な成長モデルを提示できるかが、今後の最大の焦点となる。