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豊漁の光と影 クロマグロ・寒ブリ・スルメイカ、日本の海で何が起きているのか?

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マグロ漁
PhotoACより

「海のダイヤ」と呼ばれるクロマグロが石川で捕れすぎて困りものになり、七尾では冬の味覚・寒ブリが市場を活気づける。さらに福島・相馬沖では、スルメイカが例年の倍近い大漁にわき起こっている。豊漁は本来、漁師や市場を潤す吉報であるはずだ。だが、資源管理や漁具の破損、価格の下落といった影もまた浮かび上がる。日本各地で同時多発する「想定外の豊漁」は、いま海に何を語らせているのだろうか。

 

 

“海のダイヤ”が厄介者に 。 石川のクロマグロ

5月の金沢港。定置網から引き上げられた銀色の巨体が氷に覆われ、冷たい潮の匂いを漂わせていた。クロマグロ、その名を聞くだけで高級寿司ネタを思い浮かべる人も多いだろう。だが今年、石川県内の漁師にとってその存在は「海のダイヤ」どころか「厄介者」になっている。

「大型のクロマグロは、いつもなら年度末まで捕れるのに、今年は夏前で枠がいっぱいになった」。七尾市の漁協関係者はそう肩を落とす。

資源回復を受け、水産庁は漁獲枠を前年度比76%増の65.6トンへと大幅に拡大した。しかし予想を超える豊漁で、7月末時点で60.6トンに達し、すでに上限の92%。県は水揚げ自粛を順次通達する事態となった。

定置網には「マグロだけを防ぐ仕組み」がない。網にかかったマグロを放すと、狙いのアジやサワラも一緒に逃げる。さらにマグロは力が強く、網を破ってしまう。スルメイカ漁では釣り針ごと仕掛けを壊される被害も報告された。石川の漁協関係者からは「他の魚まで取れなくなるのでは」という不安の声が漏れる。

それでも市場価格は1キロあたり2500〜3500円と安定している。金沢市の市場担当者は「供給過剰というほどではない」と語るが、豊漁が必ずしも手放しで喜べるものではない現実が突きつけられている。

 

七尾を沸かす寒ブリの大物。 復興への追い風

一方、同じ石川の七尾市では、冬の味覚・寒ブリが活気を呼び戻していた。11月下旬、七尾市公設地方卸売市場。氷の上に並ぶ黄金色の魚体に、セリ人の掛け声が響き渡る。25日には今季最多の約900本、翌日にも約500本が水揚げされた。

「今年は例年より大物が多い」。卸売業者の顔には自然と笑みが浮かぶ。中には17.8キロというビッグサイズも登場し、最高級ブランド「煌(きらめき)」の認定に期待がかかる。

能登半島地震で市場の駐車場が陥没し、営業再開は2月までずれ込んだ。それだけに、大物の登場は漁師や市場関係者にとって復興の象徴でもある。市場の担当者は「煌の認定前に順調に大物が出てきている。市場もさらに活気づくだろう」と胸を張る。

もっとも、背景には異変も潜む。猛暑で海水温が高止まりし、シイラやヒラマサなど夏の魚が11月に入っても目立つ一方、タコは例年の3分の1しか取れない。気候変動の影響が色濃い中で、ブリだけが豊漁となったのは、幸運なのか、それとも不安定な兆しなのか。

 

相馬沖に押し寄せるスルメイカ。 理由なき大漁

福島県相馬市の松川浦漁港。9月の朝、19トンの底引き網漁船からコンテナへと次々と積み上げられる白とピンクのスルメイカに、漁師の笑顔が広がった。

「こんなに網に入るのは初めてだ。カレイが不漁だから助かるよ」。相馬市の漁師の男性は破顔した。

相双漁協によると、9月上旬の水揚げは昨年の1.8倍ペースで、1日40トンを超える日もあった。だが価格は1キロ239円と半値近くに下落。資源管理の観点から、漁協は自主的に「1隻2トンまで」の上限を設ける決断をした。

なぜ豊漁が起きたのか。地元の人々は首をかしげるばかりだ。「分からん。海に聞いてけろ」と漁師は笑う。福島県の水産研究関係者も「海水温や海流、エサとなる小魚の状態など複合的な要因だろう」と推測するが、詳しい理由はわからない。

浜の駅「松川浦」では、3〜4杯入り480円のパックが昼までに300パック完売する人気ぶり。サンマに代わる新たな定番商品として歓迎する声もあがっている。

 

豊漁は祝福か、それとも試練か

石川のクロマグロは「困った豊漁」、七尾の寒ブリは「復興を支える豊漁」、相馬のスルメイカは「理由なき豊漁」と、同じ“豊かさ”でも三者三様の姿を見せている。

共通しているのは、海がもたらす恵みがいつも予測どおりではないということだ。資源回復や気候変動、海流の変化。漁師や市場はその波に翻弄され、時に喜び、時に困惑する。

夜明けの港に響くセリの声。氷に覆われた魚体から立ちのぼる潮の匂い。その光景は、日本の食卓を支える漁業の最前線そのものだ。豊漁の光と影を見つめることは、海と人との関わりを問い直すことにつながる。

 

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ライター:

広島県在住。福岡教育大学卒。広告代理店在職中に、経営者や移住者など様々なバックグラウンドを持つ方々への取材を経験し、「人」の魅力が地域の魅力につながることを実感する。現在「伝える舎」の屋号で独立、「人の生きる姿」を言葉で綴るインタビューライターとして活動中。​​https://tsutaerusha.com

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