ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

10歳小学生の二重整形動画に批判殺到 美容クリニックが直面する「倫理」と「説明責任」

コラム&ニュース コラム ニュース
リンクをコピー
TCB新宿東口院
TCB新宿東口院 TikTokより

大手美容外科「TCB東京中央美容外科・新宿東口院」が公開したTikTok動画が波紋を広げている。映像には、わずか10歳の小学生が二重整形を受ける様子が収められ、施術前から術後のビフォーアフターまでが“夏休みの思い出”のように描かれていた。

家族とともに笑顔で映る少女の姿は、クリニック側にとっては宣伝効果を狙った演出だったのかもしれない。しかしSNS上では「成長途中の子どもに整形は早すぎる」との批判が噴出。医学的リスク、倫理観、そして広告手法の是非が改めて問われている。

 

SNSで拡散された衝撃の映像

大手美容クリニック「TCB東京中央美容外科・新宿東口院」の医師が、夏休み中の10歳の女子小学生に二重整形を施す様子をTikTokに投稿していたが、9月18日、有名インフルエンサーの滝沢ガレソ氏がXでこの動画を紹介すると、瞬く間に拡散。批判の声が止まらず、社会問題へと発展している。

問題の動画は8月5日に公開されたもので、同院に在籍する“ゆいこ先生”が担当。施術前のインタビューから術後1か月後のビフォーアフターまでを1分弱に編集し、《恋する小学生? 10歳の夏休みに二重整形》とのテロップを掲げていた。少女の照れ笑いや姉の茶化しを交え、「夏の思い出」として演出された映像は、一見すると微笑ましいホームビデオのような仕上がりであった。

しかし、これを見た視聴者の多くは「未成年整形の安易な正当化」だと強い拒否反応を示した。

 

「家族の思い出」として消費された医療行為

動画では、医師が「誰かに見せたい?」と問いかけ、姉が「好きな子がいるんでしょ」と茶化す場面が盛り込まれ、少女は嬉しそうに笑顔を見せていた。整形後には「気になる子に二重を気づいてもらえて嬉しかった」と感想を述べ、最後は医師が「これからも家族で楽しんでくださいね」と締める。

演出意図は「心温まる家族の体験談」であったのだろう。しかし、医療行為を“恋する小学生”という言葉でパッケージ化し、SNSの宣伝材料として拡散したことは、視聴者に強烈な違和感を与えた。

 

医学的・倫理的なリスク

美容ライターはこう警鐘を鳴らす。
「身体がまだ発達段階にある10歳児への美容整形は、結果が安定せず将来的に再手術が必要になるリスクが高い。逆さまつ毛など医療的に必要な治療は理解できるが、今回のように“美容目的”を前面に打ち出すのは極めて危うい」

さらに、整形の決断には本人の意思が不可欠だが、低年齢ではその判断力が未熟であり、親や周囲の期待に左右されやすい。今回の映像が「本人の自主的な希望」として描かれていたとしても、果たして真に自由な選択だったのか疑問が残る。

 

ネット世論は圧倒的に否定的

X上では批判コメントが殺到した。

《10歳で整形って正気か?》
《成長してからの方がいいに決まってる》
《10歳でデジタルタトゥーを背負わせるのは親の責任だろ》
《未成年整形を宣伝に使うな》

中には「クリニックが家族を利用して集客の道具にした」と非難する声も目立つ。医療行為そのものだけでなく、それをSNS広告に利用した姿勢に対しても強い反感が示されている。

 

過去の未成年整形と広告規制の流れ

未成年の美容整形をめぐっては、過去にも議論を呼んだ事例がある。数年前には高校入学前の女子生徒が二重整形を受け、その体験談をクリニックが広告に活用したことが炎上した。ほかにも「大学入学祝い」や「成人式前」の整形を推奨するキャンペーンが批判されてきた。

厚生労働省は美容医療に関する広告規制を強化しており、2018年には「治療の誇大広告禁止」「未成年者への誤解を招く表現禁止」が盛り込まれた。にもかかわらず、SNS時代に入り、インフルエンサーや短尺動画を活用した宣伝が横行し、規制の網をすり抜けているのが現状だ。

今回の動画もまさにその典型例であり、「温かい家族の物語」として演出することで宣伝色を隠そうとしたが、逆に社会の反発を招いた。

 

海外での未成年整形規制

海外に目を向けると、未成年整形への規制は日本以上に厳格だ。韓国では美容整形が文化的に根付いているものの、18歳未満への施術には強い制限があり、学術的にも「成長期の美容目的整形は避けるべき」との見解が主流だ。

欧州では、フランスやイギリスで18歳未満への美容整形を原則禁止する法律が施行されている。特にフランスでは2020年以降、未成年に対する美容目的の広告や宣伝も厳しく規制され、違反すれば罰金が科される。アメリカでも州ごとに規制は異なるが、15歳以下への美容整形はほぼ認められていない。

これらと比較すると、日本は「親の同意さえあれば施術可能」という状況であり、国際的には規制が緩すぎると指摘せざるを得ない。

 

SNS依存とルッキズム加速の背景

今回の問題を単なる「未成年整形」の一例と片付けるのは容易い。しかし、その背後にはSNS文化がもたらす深刻な社会的背景がある。近年、TikTokやInstagramといった短尺動画プラットフォームは、若年層の自己表現の場として爆発的に広がった。

その一方で、加工アプリの普及やフィルター文化の定着により、「完璧な見た目」を競い合う風潮が強まっている。

心理学者は指摘する。
「SNS上で“いいね”を得ることが自己肯定感の源泉となる若者が増えており、その延長線上に美容整形の早期志向が生まれている。外見を巡る競争が過熱するほど、ルッキズムは日常生活にまで侵食し、子どもたちの精神的負担は増すばかりです」

つまり、10歳の少女が整形を受けた今回の事例は、単なる一家庭の判断というより、社会全体の「外見至上主義」が小学生にまで浸透していることの象徴でもある。

 

専門学会の姿勢と社会的責任

日本美容外科学会などの専門学会も、未成年整形については慎重姿勢を示してきた。特に10代前半での施術は推奨されておらず、「医学的適応のない未成年への施術は控えるべき」とのガイドラインを出している。

しかし、こうした学会の見解は業界全体に浸透しているとは言い難い。大手クリニックによるSNS宣伝が規制の抜け道となり、今回のように社会的混乱を招く事例が後を絶たない。

美容医療業界は今後、未成年の整形に対する明確な年齢制限の導入や、広告手法に対するより強い規制を求められるだろう。

美容医療業界は今後、未成年の整形に対する明確な指針と、広告の在り方について再検討を迫られる。年齢制限や医学的適応の基準を曖昧にしたままでは、今回のような炎上は繰り返される。

クリニック側は「親の同意があるから問題ない」と説明するかもしれない。しかし、それで社会の批判が収まる時代ではない。未成年を対象とする医療行為には、医師と施設の説明責任、広告表現の妥当性、そして何より子どもの将来に与える影響を最優先に考える倫理観が求められている。

今回の炎上は、単なる一動画の問題にとどまらない。外見至上主義が加速する社会において、我々は「美容医療をどこまで許容するのか」という根源的な問いに直面している。

Tags

ライター:

千葉県生まれ。青果卸売の現場で働いたのち、フリーライターへ。 野菜や果物のようにみずみずしい旬な話題を届けたいと思っています。 料理と漫画・アニメが大好きです。

関連記事

タグ

To Top