
警視庁赤坂署は8月28日、都立高校に勤務する家庭科教師・大平なる美容疑者(30)を偽造有印公文書行使と詐欺の疑いで逮捕した。大平容疑者はマッチングアプリで知り合った50代男性に「民事訴訟で和解金が必要」と虚偽の説明を行い、偽造した和解調書を提示して現金700万円を受け取ったとされる。教育現場に立つ人物の逮捕は社会に衝撃を与えた。
偽造書類を提示し現金を受領
捜査関係者によると、大平容疑者は今年2月、被害男性に「仕事関係で民事訴訟を起こされ和解金が必要になった」と相談を持ちかけた。
男性が証拠を求めると、容疑者は偽造した和解調書を提示。3月23日、東京都港区内のホテルラウンジで現金700万円を受け取ったという。
その後、借用書に記載された住所が虚偽であることや、和解調書に記された事件番号が実在しないことが判明。男性は不審に思い赤坂署へ相談し、5月に被害届を提出した。
大平容疑者は調べに対し「和解調書を渡して金を借りたことは認めるが、返さなくてよいと言われていた」と供述している。
男性は3年前にマッチングアプリで容疑者と知り合い、交際関係ではなかったが月に数回食事を共にしていた。取材に対し「信頼していた相手に裏切られた。金を失った痛みより、人を信じる気持ちを失ったことがつらい」と語った。
事件後は精神的ショックから体調を崩し、仕事にも影響が出ているという。
優しい先生の裏の顔
大平容疑者は今年4月から都立高校で家庭科を担当。その前は江戸川区内の小学校に勤務していた。児童や保護者からは「優しい先生」として知られ、怒ることも少なく、好意的な評価を受けていた。
小学校の保護者は「子どもが怖がらず安心して授業を受けられた先生だった」と驚きを隠せない。
しかし私生活では複数の男性から金銭を受け取り、その一部について返金を求められて民事訴訟で敗訴していたとみられる。今回の詐取も、返済資金を工面する目的だった可能性が指摘されている。
不自然な生活と突然の引っ越し
大平容疑者は江東区内の家賃10万円のマンションに居住していたが、逮捕前に突然引っ越していた。近隣住民によれば「夜逃げのようではなかったが、週末に業者を呼び慌ただしく荷物をまとめていた」という。
退去後、マンションには親族名義の荷物や高級食材「燕の巣」とみられる品が届き、収入と生活ぶりの不自然さが浮かび上がっている。
教育現場の動揺と対応
勤務先の高校校長は「教員の逮捕は誠に遺憾。教育現場として再発防止に努める」とコメント。9月1日の始業式で生徒に逮捕を伝えた。前任校の小学校も「児童への影響を最小限にとどめたい」として教育委員会と協議している。
東京都教育委員会の関係者は「まずは児童生徒の心のケアを徹底し、保護者説明会を予定している。今後は教員への倫理教育をさらに強化する」と述べた。信頼回復のため研修義務化や生活実態調査も検討されている。
相次ぐマッチングアプリ被害
今回の事件は氷山の一角だ。2025年7月には女性向けアプリ「Tea」の旧サーバーが公開状態となり、本人確認画像やID写真7万件以上が流出。利用者の位置情報まで特定される二次被害が報じられた。
2024年秋から翌年春には「トクリュウ」と呼ばれるグループが男性54人から計約8000万円を詐取する事件も摘発されている。
警察庁によれば、2024年の特殊詐欺被害のうち男性34.9%、女性33.2%がマッチングアプリを通じて加害者と接触していた。被害時の連絡手段は94%以上がLINEであり、SNSやアプリを利用した詐欺の巧妙化が浮き彫りとなっている。
国民生活センターは「投資詐欺」「デート商法」「結婚詐欺」「国際ロマンス詐欺」「ぼったくり」を典型例と指摘。いずれも「信頼関係を装い、金銭を引き出す」点で共通しており、大平容疑者の事件もその一類型とみられる。
小池百合子東京都知事は29日の会見で「教育者による犯罪は誠に遺憾。再発防止に取り組む」と述べた。
教育現場の信頼回復と並行して、社会全体でマッチングアプリ利用に伴うリスクを周知し、被害防止につなげることが求められている。
大平なる美容疑者による詐欺事件は、教育現場への信頼を揺るがすと同時に、マッチングアプリを悪用した犯罪の深刻さを浮き彫りにした。優しい先生として慕われながら裏で金銭をだまし取っていた二面性は、保護者や生徒に大きな衝撃を与えている。
教育委員会の対応が急務となる一方、誰もが被害者になり得る現実を社会全体で直視する必要がある。