8月27日公開回は“完全オール”で決着、29日に出資見送りを発表

YouTube番組「令和の虎」で8月27日に公開された回に、相続不動産売却支援サービス「カミウリ」を掲げる植西剛士が志願者として登場した。番組内では過去に年商100億円超まで伸ばした不動産事業の経験を強調し、希望額1000万円の“投資”を提示。
最終局面では虎2人が各500万円を約し「完全オール」の結末となった。公開日時は2025年8月27日19時で、番組公式の動画およびアーカイブが確認できる。
しかし動画公開後、過去の不動産ビジネスを巡るトラブル情報がSNS上で急速に拡散。29日夕、番組側は緊急のフォローアップ動画「先日配信された本家志願者・植西さん(相続不動産売却サービス『カミウリ』)について【最後の審判】」を公開し、視聴者から寄せられた指摘を踏まえ「出資は放送後に実行される運用だが、今回は一旦見送る」と説明した。
公開日時は2025年8月29日。虎の一人で出演していたCBTS野口氏もXで謝罪し出資はあり得ないと訂正した。「私は日本の未来に役立つ人を助けたく虎に参加しております。この様な背景を持つ方を応援する事はありません。出資する事はありません。ただ、林さんの言われる様に人は再起出来る様なチャンスも与えられるべきだとは思っています。ただ虎という番組でこの方に出資や支援をする事は、虎自体にとっても良くありません。ですので今回は絶対に出資、応援すべきで無いと判断しております」と動画対応に言及している。
何が問題視されたのか ReVie/CAPITALとBLAZEを巡る「逆ザヤ」構造
植西が関係したとされる不動産販売会社ReVie(のちにCAPITALへ改称)と、賃貸管理会社BLAZEのスキームに対し、当時のオーナーらから「家賃保証の逆ザヤ(受け取る入居家賃より高い保証額を約束)で、やがて未払いが発生した」との批判が相次いだ。全国賃貸住宅新聞のオンライン記事は、ReVie/CAPITALとBLAZEをめぐるサブリース賃料未納問題や、共同不法行為の立証可能性を論じている。
さらに国土交通省関東地方整備局は2023年3月22日、BLAZEに対し、重要事項説明書の不交付など「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」違反で業務停止等の監督処分を実施したと発表している(停止期間は同年4月5日~4月19日)。処分内容を告知する関東地方整備局のPDF・業界紙の記事で事実関係が確認できる。
そもそも、ReVieとその関連会社BLAZEが行っていたのは、保証家賃を高く設定するだけではなかった。通常であればオーナーが負担する管理費や修繕積立金まで会社側が肩代わりし、表面的には「出費ゼロで毎月黒字になる」ように見せかけていた。投資初心者にとっては「確実に儲かる」かのように映ったが、実際には本来発生するはずの支出を隠した粉飾的な収支シミュレーションだった。
この仕組みは「かぼちゃの馬車」事件と酷似している。実際に家賃収入が保証額に届かず、赤字を埋める原資は新規オーナーからの販売収益。つまり最初から破綻を前提としたスキームだったと業界関係者は指摘している。
倒産とその後の影響
2018年頃からすでに専門家や不動産投資コミュニティでは「必ず支払いが滞る」との警告が出ていた。予想通りオーナーへの送金が止まり、事務所が閉鎖される“夜逃げ”状態となった。管理を委託されていたBLAZEは2023年3月、国土交通省から重要事項説明義務違反などで業務停止処分を受けている。
被害者の中には多額の借金を抱えて自己破産に追い込まれた人もおり、「泣き寝入りせざるを得なかった」という証言もある。法律上は「詐欺罪」として立件されてはいないものの、投資家の間では「典型的なサブリース詐欺」として語られ続けている。
なぜ投資家は引っかかったのか
サブリースは「空室リスクを避けられる」と宣伝される一方で、契約内容によっては会社にとって有利に設計される。保証賃料が実態より高すぎる場合、長期的に支払いが維持できるはずがなく、結局オーナーが損を抱え込むことになる。初心者が「毎月の収支が黒字」との甘言を信じやすい点が狙われたとみられる。
一度契約が破綻すれば、管理会社を通常の集金代行に切り替える必要がある。その際には「実際の相場賃料」での運営となり、保証家賃よりも大幅に下がる。さらに管理費や修繕積立金の支払いがオーナーに戻ることで、収支は一気に悪化する。売却を余儀なくされたオーナーも少なくなく、販売時の高値設定の影響で「残債割れ」に苦しんだ事例も多かった。
番組側の説明と視聴者の疑義
番組公開後炎上した先で、令和の虎は林主宰と桑田社長が「最後の審判」動画を公開。「志願者の説明は事前面談で聞いていたが、放送後のチェック機能として、社会に問うためにも出資実行は後にしている。今回は寄せられた情報を受け、いったん見送る」と説明した。今後、植西側が「誤解があるなら証明してほしい」とも言及している。
SNS上では、投資家や不動産実務者のアカウントが当時のスキームを図解し、「建物管理費・修繕積立金を販売側が負担する前提で月次収支を0円見せにしていた」「その後、家賃未払いでオーナーが打撃を受けた」などの経験談・注意喚起が投稿されている。
新たな追及【コーティング王子吉井】の動画公開
炎上が広がるなか、8月30日にはコーティング専門店Glationを運営する【コーティング王子吉井】がYouTubeで動画を公開し、植西に公開対談を求めた。吉井は「私は被害者の一人だ」と名乗り、かつて植西から物件を購入した経験を告白。知人には多額の負債を抱え自己破産に追い込まれたケースもあると述べたうえで、「まずは被害者に謝罪し、弁済計画を示すことが再出発の最低条件だ」と迫った。
さらに「真摯に償うなら私が1000万円を出資してもいい」と明言し、植西に逃げずに正面から応じるよう要求している。
被害者の怨嗟とSNSの批判
SNS上には「この人が出た瞬間、令和の虎の信用性が無くなった」「ググったら詐欺しか出てこない」といった声が相次いだ。不動産投資家を名乗る人物は「2022年に家賃が未払いとなり、事務所も夜逃げ状態だった」と証言している。被害を受けたという投稿者の中には「裁判沙汰も未解決のまま。補填もされていないのに次のビジネスに進もうとするのは許せない」と憤る声も見られる。
契約書に“サブリース100%保証”と明記されていたとの証言や、録音データの存在を指摘する声も上がり、植西の説明と食い違う点が議論を呼んでいる。
倫理と再チャレンジ “誰でもやり直せる社会”と被害者救済の間で
「令和の虎」は、既存の金融機関から資金が届きにくい事業者に“社会のセーフティネット”としての役割を果たす側面がある。その理念自体は、日本の起業エコシステムにおいて意義深い。
一方で、過去の大規模トラブルに関与した人物の再登場に際しては、被害者救済や説明責任の履行、リスク管理体制の実効性など、倫理面のハードルは必然的に高くなる。番組側が出資見送りに転じたのは、透明性確保とブランド毀損の回避を優先した合理的対応と言える。
植西は番組中、「契約書上の損害は発生していない」「過剰サービスが回らなくなった」と主張したが、サブリースの構造上、保証・解約・管理委託の移管過程でオーナー側の実損が累積し得るのは、他の事例からも明らかだ。サブリースの赤字転落や解除後の収支悪化は、一般論としても複数のケースで指摘されている。
新ビジネスを進めるのであれば、まずは当時の顧客対応・清算の実績開示、内部統制(経理・与信・キャッシュフロー管理)と利益相反の遮断(囲い込み禁止の担保)を、第三者関与で“見える化”するのが筋だろう。
“視聴者の声”が突きつけた宿題
今回の一件は、番組の審査スキームに“放送後実行”という安全弁を組み込んでいたことが機能した一方、志願者のバックグラウンド・関係会社の行政処分歴など、事前のファクトチェックの深度をなお高める必要があることも示した。
炎上の熱が冷めぬ中で、新サービス「カミウリ」の宅建業免許・表示、利益相反回避条項、査定AIのバイアス検証、手数料・囲い込み禁止の誓約など、具体の開示が問われる。再挑戦の道を選ぶなら、まずは被害を訴える人々への説明と救済のロードマップを示すべきだ。