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朝日新聞のファクトチェックは信頼できる? 新体制の狙いと「過去の報道」から見る課題

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朝日新聞のファクトチェック

6月13日、朝日新聞は、偽情報や誤情報が社会に与える影響の深刻化に対応するため、編集局内に「ファクトチェック編集部」を新たに発足させることを発表した。YouTubeやX(旧Twitter)などのSNSで拡散する情報も対象とし、事実関係を迅速に検証する体制を強化する。

 

これまでの取り組みと新設の背景

朝日新聞は2016年10月、日本の主要メディアとしては早い段階で、政治家の発言などを検証する「ファクトチェック」を開始。この取り組みは、当時アメリカに留学していた園田耕司記者(現・政治部次長)の提案がきっかけだった。米大統領選で、メディアが候補者の発言を徹底的に検証する報道に触発された園田記者が、日本での導入を働きかけた。

以来、約60件のファクトチェック記事を配信。2021年9月からは、認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)が策定した9段階の客観的な基準を導入し、判定の信頼性を高めてきた。

近年、SNSの普及に伴い、真偽不明の情報が瞬く間に拡散し、世論形成に大きな影響を与えるケースが増えている。今年6月の東京都議会議員選挙、7月の参議院議員選挙を前に、より迅速かつ広範なファクトチェックが不可欠と判断し、専門部署の設置に踏み切った。

 

新体制と検証の指針は?

「ファクトチェック編集部」には編集長を配置し、部署単独ではなく編集局全体で検証に取り組む体制を構築するとのこと。検証対象は、従来の政治家の発言に加え、SNS上で拡散する言説、画像、動画などにも拡大。国内外のファクトチェック機関が定める倫理原則を参考に、独自の指針も策定したとのこと。

指針では、朝日新聞綱領に基づき「不偏不党」の立場を堅持し、客観的な証拠に基づいて真実性・正確性を検証することを明記。検証対象は社会的影響の大きさを考慮して選定し、判断の根拠となったデータや取材過程は、可能な限り開示するとしている。

判定基準も刷新し、従来の9段階から8段階に見直した。新たな基準では、巧妙化する画像や動画、音声などの真偽検証にも対応する。

 

ファクトチェックの新しい判定基準

朝日新聞によると、記事の判定は以下の8段階となる模様だ。

判定説明
正確事実の誤りはなく、事実を構成する重要な要素が欠けていない
おおむね正確一部が不正確、もしくは根拠が乏しいが、主要な部分・根幹に誤りはない
ミスリード一見事実と異なってはいないが、重要な事実が欠落したり、表現が誇張されたりしており、誤解を招く余地がある
一部誤り事実関係の一部に不正確な部分があり、全体として正確性を欠いている
誤り全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある
根拠不明誤りとは判定できないが、証拠・根拠が乏しい
フェイク画像、動画、音声などが、改変・合成されたり、AIなどで生成されたりして、事実の誤りがある
判定留保現時点での情報では、真偽をはっきり判定できない

海外のファクトチェックの潮流は?

 

ファクトチェックは、特に政治の透明性が重視される欧米で先行して発展してきた。米国では2000年代から「PolitiFact」や「FactCheck.org」といった非営利団体が活動を始め、選挙のたびに候補者の発言を検証し、有権者の判断材料を提供することで知られる。

また、AFP通信やロイター、AP通信といった世界的な通信社も専門部署を設け、世界中の言語でSNS上の偽情報や誤解を招くコンテンツを日々検証し、レポートを配信している。これらの機関は、米国のポインター研究所が運営する「国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)」が定める厳格な倫理規定に署名し、手法の透明性や公平性を担保する取り組みを共通して行っている。

 

「信頼性」への厳しい視線と課題

一方で、報道機関によるファクトチェックの取り組みには、厳しい視線も向けられている。特にインターネット上では、「そもそも報道機関自体が信頼できるのか」という根源的な問いが投げかけられることも少なくない。

今回の朝日新聞の発表に対しても、ネット上では「過去に慰安婦問題などで誤報を認め記事を取り消した歴史を持つ報道機関が、他者の情報を『チェック』する立場に立つのは皮肉だ」といった趣旨の批判的な声が散見される。こうした意見は、過去の報道が日本の国益を損なったとする一部の主張としばしば結びつき、メディア不信の根深さを示している。

「誰がファクトチェッカーをファクトチェックするのか」という問題は、この分野における普遍的な課題だ。新設される編集部が、過去の報道への批判も踏まえた上で、いかにして党派性を排し、誰もが納得できる客観性と透明性を示せるか。その手腕が、取り組みの成否を分ける最大の鍵となるだろう。

同社は「他メディアとも情報やノウハウを積極的に共有し、社会全体のファクトチェック能力の向上に貢献したい」としている。

 

問われる「信頼」の再構築とジャーナリズムの未来

朝日新聞のファクトチェックへの本格参入は、偽情報対策が急務となる現代社会において重要な一歩と言える。一方で、過去の報道姿勢に対する根強い批判から、その信頼性に疑問符が投げかけられているのもまた事実だ。

しかし、組織としての評価とは別に、個々の記者に目を向ければ、朝日新聞には優れた取材力や分析力を持つ書き手が多いことも見逃せない。今回の専門部署設置が、現場の記者たちの能力を最大限に活かし、党派性を超えた公正な事実の探求へと繋がるのであれば、社会にとって大きな利益となりうるだろう。

この取り組みが、単なる自社の権威付けに終わるのか、それとも日本のジャーナリズム全体の健全化に貢献するものへと発展していくのか。その行方は、これから示される一つ一つの検証事例の透明性と公平性にかかっている。多くの国民が、その動向を注意深く見守っている。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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