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2200万円の「ラブブ」初代モデル落札! 熱狂の裏で中国IPが世界を席巻、日本のIP戦略は岐路に

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らぶぶ イメージ

6月10日、中国・北京で開催されたオークションで、人気沸騰中のぬいぐるみ「ラブブ」の希少な初代モデルが、驚きの108万元(約2200万円)で落札された。この記録的な高値は、いまや世界中で社会現象を巻き起こしている「ラブブ」ブームの熱狂ぶりを象徴している。

単なるキャラクターグッズの域を超え、アート作品や投資対象としてまで価値を高める「ラブブ」。その背景には、中国がアニメ・ゲーム産業で培ってきた技術と戦略、そして日本のIP(知的財産)戦略が直面する課題が見え隠れする。

 

世界を席巻する「ラブブ」人気の深層:中国IPの脅威と魅力

「ラブブ」は、香港出身のイラストレーター、カシン・ロン氏が生み出し、中国の玩具大手ポップマートが販売するキャラクターだ。ウサギのような耳とギザギザの歯、そしてどこか不気味ながらも愛らしい表情が特徴的で、「ブラインドボックス」形式での販売が、購入にサプライズの要素を加え、コレクター心を刺激している。特に、72分の1の確率で手に入る「シークレット」バージョンは、まさにコレクターの垂涎の的だ。

ラブブ
© POP MART. All rights reserved.

このブームは、中国国内だけでなく世界へと波及し、ポップマートの海外店舗はフランスの首都パリのルーブル宮や英国ロンドンのオックスフォード街、米国のサンディエゴなど、世界の主要都市で急増している。店舗前には「ラブブ」を買い求める人々の長蛇の列ができ、時に客同士の口論が発生するほどの過熱ぶりを見せているという。

 

世界中のセレブを魅了するIPに

SNS、とりわけTikTokでの拡散力は凄まじく、ファンが自慢のコレクションを披露する動画は数百万回再生され、ハッシュタグ「#labubu」は世界中で100万件以上の投稿に使用されている。歌手のリアーナやデュア・リパ、K-POPグループBLACKPINKのメンバー、さらにはサッカー界のレジェンド、デビッド・ベッカムといった世界的なセレブも「ラブブ」を自身のSNSで披露しており、ブームの勢いをさらに加速させている。

これまで、アニメやゲームといったコンテンツ産業において、日本はキャラクターIP開発の先駆者として世界をリードしてきた。しかし、ここ数年で中国企業は目覚ましいスピードでこの分野をキャッチアップしている。アニメーションの技術力やゲーム開発のノウハウを蓄積する中で、キャラクターデザインや世界観構築のレベルも格段に向上している

 

ポップマートは、カシン・ロン氏という才能あるクリエイターを起用し、そのデザインを巧みに商品化することで、「ラブブ」を世界的なキャラクターへと押し上げた。これは、日本のサブカルチャーが持つ「カワイイ」という概念を理解し、それを中国独自の視点と融合させた結果と言えるだろう。単なる模倣ではない、オリジナリティと市場への適応力が、中国キャラクターIPの新たな潮流を築きつつあるのだ。

「前は楽に買えたのに…」日本の古参ファンが語る変貌と入手困難のリアル

 

こうした世界的ブームの陰で、日本の古参ファンは複雑な心境を抱えている。東京都内に住む20代の会社員、田中美咲さん(仮名)は、「ラブブ」がまだ一部のファンにしか知られていなかった頃からのコレクターだ。彼女の語る言葉からは、ブームの過熱ぶりが浮き彫りになる。

「私がラブブを知ったのは、K-POPアイドルのBLACKPINKのリサがつけているのを見たのがきっかけでした。彼女のセンスが好きなので、私も欲しくなってすぐに探し始めましたね。最初は中国のオンラインストアで個人輸入したり、たまに日本の雑貨店で入荷があれば並んで買ったりしていました。その頃はそこまで競争率も高くなくて、限定品も比較的スムーズに手に入ったんです。月に1万円も使えば、かなり充実したコレクションが作れました」

しかし、ここ1年ほどで状況は一変したという。

 

「今はもう全然違います。ポップマートの日本公式オンラインストアもすぐに完売しますし、都内にある数少ない店舗でも、発売日には早朝から長蛇の列ができます。一度、新しいシリーズの発売日に並んだんですけど、整理券が配られる前に割り込みがあって、列がぐちゃぐちゃになって、結局買えなかったこともありました。『ラブブ・ハンガー・ゲーム』って言われるくらい、今は争奪戦が激しいんです。

前は基本シリーズが20ドル(約2880円)から30ドル(約4320円)くらいだったのに、Vansとのコラボモデルなんて、発売当初の定価は599元(約1万2000円)だったのに、今や中古市場で1万元(約20万円)にまで高騰しているんです。eBayでは限定版が1体あたり7000ドル(約100万円)で売られている例もありますし、StockXではVansコラボモデルが1体3000ドル(約55万円)以上で取引されています。正直、もう気軽に集められなくなってきていて、寂しい気持ちもあります」

中国国内でもラブブの入手は極めて困難で、国営メディア「封面新聞」によると、ブラインドボックス方式で売られている最新シリーズ「3.0」は、当初約81ドルだったものが中古市場では最高278ドルで取引されるなど、転売価格が定価を大きく上回る状況が常態化している。

中国の税関は転売目的で密輸されたラブブをすでに462体押収したと報じられているように、ブームの陰には、倫理的な問題や法的な課題も潜んでいる。

なぜ「ラブブ」ブームは一過性ではないのか?

 

「ラブブ」のブームは現在最高潮に達しているが、これが一時的な流行で終わるのか、それとも長期的に持続するのかは重要な視点だ。結論から言えば、「ラブブ」ブームは一過性で終わる可能性は低いと見られる。その持続性を支える要因はいくつかある。

まず、戦略的なマーケティングと販売方法の巧みさだ。「ブラインドボックス」による購入体験のゲーム化、限定商品の頻繁な投入による希少性の演出、そしてリアーナやデビッド・ベッカムといった世界的なセレブを巻き込んだSNSマーケティングは、強力な購買意欲と話題性を生み出し続けている。さらに、カシン・ロン氏という明確なクリエイターがその世界観を掘り下げており、単なるキャラクターグッズの枠を超えたアート性やストーリー性も、ファンの心を掴んで離さない。

 

次に、ポップマートのグローバル戦略も重要な要素だ。海外店舗の積極的な出店や、オンラインでの販売チャネルの強化により、世界中のファンが「ラブブ」にアクセスできる機会を創出している。これにより、一部の国や地域に限定されない、真のグローバルキャラクターとしての地位を確立しつつある。

そして、「ラブブ」の「収集性」は、ブームを持続させる大きな原動力となっている。シークレットバージョンや限定コラボレーションなど、コレクターの所有欲を刺激する要素が常に提供されることで、ファンは継続的に商品を購入し、コレクションを完成させようとする。この「集める楽しみ」が、ブームの火を消さない鍵となるだろう。

中国IPの台頭と日本のIP戦略は岐路に立つのか?

 

かつてはアニメやゲーム、キャラクターといったIP分野で世界をリードしてきた日本。しかし、「ラブブ」の世界的ヒットは、中国がキャラクターIP開発においても着実に日本のレベルに追いつき、追い越そうとしている現実を突きつける。

中国企業は、潤沢な資金力と巨大な国内市場を背景に、優秀なクリエイターを起用し、緻密なマーケティング戦略を展開している。さらに、オンライン販売やSNSを活用したプロモーションにも長け、瞬く間に世界的なブームを巻き起こす力をつけている。これは、ゲーム産業で中国企業が日本の企業をキャッチアップし、一部では抜き去った状況と酷似している。

日本IPの活路に?

 

では、日本は今後どのようにIP戦略を進めていけば活路が開けるのだろうか。

まず、「古き良き」に固執せず、変化の波に乗り続けることが重要だ。日本のIPは歴史とファン層を持つ強みがあるが、一方で新しい表現や販売方法への適応が遅れがちだという指摘もある。「ブラインドボックス」やNFT、メタバースといった新しい技術やトレンドを積極的に取り入れ、IPの可能性を広げる必要がある。

次に、海外市場を意識したIP開発が求められる。これまでの日本のIPは、国内市場をメインターゲットにしていたものが多く、海外展開は後手に回るケースも少なくなかった。しかし、「ラブブ」の成功は、世界中のユーザーに響くデザインやストーリー、そして販売戦略の重要性を示している。最初からグローバル展開を視野に入れたキャラクターデザインや世界観構築、多言語対応、そして各国市場に合わせたプロモーションが不可欠だ。

クリエイターと企業の連携強化:日本の強みを最大限に活かす

 

さらに、クリエイターと企業のより強固な連携も重要だ。カシン・ロン氏のような才能あるクリエイターの発掘と、彼らが自由に創作活動に専念できる環境作り、そしてその作品を最大限に生かすための企業側のノウハウと資金力が必要となる。日本の強みであるクリエイターの創造性を最大限に引き出し、それをグローバル市場へと展開する体制を整えるべきだ。

最後に、多様なIPの可能性を追求することだ。キャラクターは、単なる商品展開だけでなく、アニメ、ゲーム、テーマパーク、教育など、様々な分野で展開できる。それぞれのIPが持つ強みを活かし、多角的なメディアミックス戦略を展開することで、より多くの層にリーチし、IPの価値を最大化できる。

 

「ラブブ」ブームの社会的側面:転売問題とブランドイメージ

「ラブブ」の過熱する人気は、高額転売という別の側面も生み出している。供給が需要に追いつかない現状は、ファンにとっては喜ばしいことばかりではない。正規の価格では手に入らず、転売ヤーから法外な価格で購入せざるを得ない状況は、一部のファンを疲弊させ、ブランドイメージにも悪影響を及ぼしかねない。中国税関による密輸ラブブの摘発は、この問題の深刻さを物語っている。ポップマート側も、この転売問題をいかに抑制し、健全な市場を維持するかが、今後のブームの持続性を左右する重要な課題となるだろう。

未来のIP市場:持続可能な成長へのカギは?

 

「ラブブ」の世界的成功は、日本がIP戦略を再考する大きなきっかけとなるだろう。かつての世界のリーダーが、この波を乗り越え、再び世界のIP市場を牽引する存在となれるか。その答えは、これからの日本のIP戦略にかかっている。単なるブームで終わらせず、持続可能なIPビジネスモデルを確立するためには、市場の変化に柔軟に対応し、常に新たな価値を創造し続ける視点が求められる。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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