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「ワクチン未接種で隔離」問題、甲賀市の女性消防職員に150万円の和解金支払い決定

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SNSでは“同調圧力”への疑問相次ぐ 「組織の空気」に抗えなかった公的機関の失態

ワクチンハラスメント
DALL-Eで作成

新型コロナワクチンを接種しなかったことを理由に、隔離業務を強いられた女性消防職員に対し、滋賀県甲賀市の甲賀広域行政組合消防本部が150万円の和解金を支払うことが決まった。2025年6月10日に開かれた議会で議案が可決され、消防本部は「精神的苦痛を与えたことを深くお詫び申し上げます」とのコメントを発表した。

問題が起きたのは4年前、コロナ禍の混乱が続く中での出来事だった。30代の女性職員は、副反応への不安を理由にワクチンの接種を辞退した。ところが、消防本部内で「接種拒否者」として扱われ、廊下脇のスペースに隔離されるかたちで業務を命じられた。事実上の懲罰的配置転換ともいえる対応に、女性は心理的に追い詰められ、最終的には退職を余儀なくされた。

この対応をめぐっては、2024年に設置された第三者委員会が報告書をまとめ、「体制づくりが進められなければ、消防本部に未来はない」と組織マネジメントに厳しい警鐘を鳴らしていた。

 

公的組織で露呈した「同調圧力の構造」

この一件は、単なる職場内の不手際ではなく、公的機関における“同調圧力の構造”と“自由意思の否定”を象徴する事例として波紋を広げている。

公務倫理に詳しいある有識者は、「意思決定の根底に“空気”が優先される日本の組織文化がある。特に公的機関では『外れ者をつくらない』という心理が強く働き、違いを尊重する文化が根づきにくい」と語る。

加えて、接種の有無が本来私的選択であるにもかかわらず、自治体や公的機関では“全員接種”が暗黙の前提とされる場面が少なくなかった。そうした同調圧力は、個人の判断を“異端”と見なし、排除の論理を生み出す温床となった。

 

他県でも類似事例 労働相談は急増していた

本件に類似する相談は他県の消防署や市役所でも相次いでいた。厚生労働省によれば、2021年度から2022年度にかけて「ワクチン未接種を理由に不利益な扱いを受けた」とする労働相談は全国で500件以上に上った。中には、昇進試験からの排除や、リモート勤務の制限といった措置が含まれており、いずれも法的には不当な扱いとされうる。

実際、労働基準監督署の判断では「接種の選択は個人の自由であり、接種を断ったことを理由に業務内容や待遇で差をつけることは許されない」と明示している。

こうした背景から、専門家は「本件は氷山の一角に過ぎない」との見方を示している。

 

海外ではどうだったか──比較で浮かぶ“文化の差”

一方で、海外では同様の状況にどう対応したのか。アメリカでは公的機関においても「接種義務は慎重に検討」され、宗教や健康上の理由による免除申請制度が整備された。カナダでは「ワクチン義務化」の方針を打ち出した政府に対して職員組合が抗議し、裁判で「職務遂行に影響しない範囲では未接種も許容されるべき」と判断された例もある。

これらと比べると、日本では「自粛」と「空気」による内的な圧力が強く、形式上の命令ではなく“忖度的な強制”が支配していたことが見えてくる。

 

「当事者になったらどうするか」読者に向けた実用的対処法

今回のような問題が読者自身の職場で起きた場合、どのような対処が望ましいのか。労働問題に詳しい弁護士によれば、まず、接種辞退の理由を明確にしたうえで、それを上司に書面で提出することが重要だという。また、配置転換や職務の変更が行われた場合には、その経緯を記録に残し、できるだけ日付ややり取りの内容を詳細にメモしておくべきだと指摘する。

さらに、上司との会話は可能であれば録音し、議事録なども保存しておくと、後のトラブル時に有力な証拠となる。そうした備えのうえで、早期に労働組合や労働基準監督署、または弁護士に相談することが、事態の悪化を防ぐカギになるという。

「泣き寝入りせず、証拠を積み重ねることで必ず打開できる」と弁護士は語る。

 

SNSでは怒りと共感の声広がる

SNSでもこのニュースに反応が相次いでいる。

「ワクチンとマスクと自粛の押し付け。本当に異常な世の中だった」
「それでいて7回目8回目は打たない。急に“守らない”体制へ転じるなんて」
「滋賀県の消防本部は腐ってる。上層部は責任を取るべき」

こうした声は、単なる一機関の問題を超えて、日本社会全体に横たわる“同調の暴力性”を浮き彫りにしている。

今回の和解によって形式的には決着がついた。しかし、個人の信念が集団の「空気」によって抑圧される構造を放置したままでは、同じ過ちは繰り返される。自治体、組織、そして社会が、この事例をどう教訓化できるかが問われている。

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寒天 かんたろう

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ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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