ログイン
ログイン
会員登録
会員登録
お問合せ
お問合せ
MENU

法人のサステナビリティ情報を紹介するWEBメディア coki

コメ高騰の犯人は誰だ? 小泉進次郎「500%増益企業がいる」発言で神明・木徳神糧・ヤマタネら米卸大手に疑惑の目

コラム&ニュース コラム ニュース
リンクをコピー

小泉大臣の爆弾発言から犯人探しがはじまった

コメ高騰の犯人は誰だ?

「社名は申しませんが……ある米卸大手の営業利益は、前年比500%ほど。異常です」

6月5日、衆議院農林水産委員会。小泉進次郎農水相のひと言が、国会とネットを一瞬でざわつかせた。言及されたのは、昨年から高騰を続ける米価の裏側で、ある特定の企業が“暴利”を得ているのではという疑惑である。

言葉の裏には「流通過程がブラックボックス化しており、小売からも複雑怪奇との声が上がっている」との問題提起も込められていた。とはいえ、社名を伏せて「500%増」とだけ投げ込まれれば、ネット民にとっては“謎解きゲーム”の開始に他ならない。

SNSではすぐに「神明じゃないか?」「木徳神糧か、ヤマタネか?」と容疑者リストが浮上。
「これは令和の米騒動ではないか」「テレビが名指ししないなら、週刊誌がやれ」と怒号にも似た声が拡がった。

 

「コメ高騰は卸売業者のせい」論の広がり

「コメ高騰は、卸売業者のせいだ」といった言説が、ネットを中心に噴き上がっているが、火に油を注いだのは、木徳神糧が2025年12月期業績予想を上方修正したというニュースだった。

同社は5月21日、純利益予想を18億円から28億円に引き上げ、過去最高益を更新する見通しを示した。理由として「取引先との交渉による価格転嫁の成功」を挙げたことで、「やはり儲けているのか」という印象が一気に強まった。

さらに農水省が公表したデータによれば、2023年度の備蓄米流通における卸売業者の“上乗せ金額”は、2022年度比で1.6〜3.4倍に跳ね上がっているという。

SNS上では、こうした情報に基づいて「米卸が価格をつり上げ、消費者からボロ儲けしている」との声が拡散。「コメをため込んで、高値で売っている」などと、卸売業界への不信が加速している。

卸売関係者の反論「われわれはスケープゴートにされている」

 

では、この批判はどこまで的を射ているのか。あるコメ卸売業者は、備蓄米の価格上昇についてこう釈明する。

「そもそも備蓄米は、通常業務にプラスしてトラック手配や袋詰めなどが必要。残業も増え、人件費もかさむ。物価高の中、ようやく業務に見合った利益を出せるようになった企業も多いはずです」

別の業者は、コメを“ため込んでいる”との噂についてこう切り返す。

「コメは生ものに近い。高温多湿では虫も湧き、管理も難しい。ため込むなんてリスクが高すぎてとてもできませんよ。売れるうちに売り切るのが鉄則です」

つまり、本来は薄利多売でやってきた業界が、ようやく報われ始めたというのが現場の実感。にもかかわらず、メディアや世論にスケープゴート化されているという認識があるのだ。

米卸大手といえば 浮上する3社とその素顔

 

批判の的となった米卸業界の「大手」といえば、木徳神糧、ヤマタネ、神明ホールディングスの3社が代表格である。以下、それぞれの素顔と業績を見ていこう。

木徳神糧 明治から続く「帳簿の鬼」、交渉の老練

 

木徳神糧は1882年創業。精米、家庭用米、業務用米を扱う老舗で、特に価格交渉の巧さに定評がある。近年は米粉や飼料にも事業を広げ、安定感のある業務基盤を持つ。

決算期売上高(億円)営業利益(億円)
2022年12月期1,047.013.57
2023年12月期1,148.420.61
2024年12月期1,189.923.77

2024年12月期の営業利益は前年比+15%程度と堅調だが、小泉の言う“500%”には遠く及ばない。

 

ヤマタネ 物流の顔を持つ、美術館を持つ、米の名門

ヤマタネは1924年創業。全国に物流拠点を持つ倉庫・通関業の大手だが、実は食品部門(主に米穀)が売上の5割を占める。創業者が開設した山種美術館の存在も象徴的で、「文化系米卸」として異彩を放つ。

決算期売上高(億円)営業利益(億円)
2023年3月期510.9 35.88
2024 年3月期645.134.89
2025年3月期809.237.80

営業利益は前年比+8.5%。まったくもって“容疑者”たりえない数値だが、掲げるサステナビリティ指針「すべてのステークホルダーの“続く”を支える」と現実がどう響き合うかは注目されている。ぜひ、この指針通り、消費者の生活を続けることをサポートしてほしいものだ。

 

神明ホールディングス 米と青果の帝国、数字は闇に沈む

神明ホールディングスは1902年創業。非上場ながら業界最大手の会社だ。精米だけでなく、青果流通・食品メーカー・外食・製糖まで手がけるコングロマリットとなっている。IR情報は限られるが、2024年3月期に異例の決算が開示された。

決算期売上高(億円)営業利益(億円)増益率
2023年3月期4,585.413.57
2024年3月期4,889.6152.55+1,024.2%
2025年3月期5,013.9113.92-25.3%

ここである数字に驚く。2024年3月期だが、営業利益は前期の10倍超。まさに“小泉ライン”に合致する存在だが、25年3月期には減益。一過性の爆益だった可能性も高い。当時の日本食糧新聞では、米価上昇に加え、青果流通・メーカー事業でも、相場の上昇がけん引したことが明記されている。さらに神明は元気寿司の客単価増、上野砂糖の連結などが利益を押し上げた要因ともいえるようだ。コメ騒動の時期と微妙にずれている気もするが、500%という数値と合致もしていない。非上場の企業であるだけに、きちんとした開示がされているわけでもないので、真相はわからない。

SNSで飛び交う声「庶民のコメ代、誰が吸った?」

 

小泉発言をきっかけに、SNS上では“真犯人”探しと、怒りの声が渦を巻いた。

「元JA幹部がテレビで釈明してたが、見れば卸が暴利むさぼってたのバレバレ」
「米価は2倍。農家の収入は増えてない。誰が吸った?卸じゃないか」
「減反が原因という報道には違和感。明らかに業者の欲」
「意図して儲けたのではないにせよ、儲かったのなら責任を明らかにすべき」

冷静な声もある。

「構造的問題で問屋の市場支配が強く、価格転嫁が進みすぎた。仕組みの再設計が必要」
「大手が謝らなくても、黙っていれば業界全体が不信を買う」

怒りと諦め、構造批判と倫理の問い。混ざり合った世論が、静かに「蔵の扉を叩いている」。

江戸時代は打ちこわしがあったが……

 

江戸期、米価が釣り上げられたとき、庶民は米蔵を壊して抗議した。
文明は進んでも、米が“命の糧”であることに変わりはない。事業会社である以上、儲けることは悪ではない。正しい。だが、市民とともにあるべき企業が暴利をむさぼる姿は、倫理を問われてしかるべきだ。

ステークホルダーの「続く」を支える──その言葉が、誠実さをもって実行されていたか。企業の理念が、帳簿の数字に置き換わってはいなかったか。

いま、声明を出すべき時ではないか

 

いま注視されているのは、数字だけではない。木徳神糧、ヤマタネ、神明──いずれも堂々たる老舗であり、社会と向き合ってきた歴史を持つ企業である。それだけに問われるのは、「この沈黙は正義か」ということだ。

もし自社が対象でないのであれば、「それは我が社ではない」と表明する自由はある。もし心当たりがあるなら、「儲けに走った部分があった。申し訳ない」と率直に述べる誠実さがあってもいい。事業会社なのだから利潤を追求するのは当たり前なのだから。

このまま黙して静観を決め込めば、業界全体が「市民の敵」として十把一絡げに見なされる。いや、既に見なされていることを当事者たちが感じているだろう。これは中長期的に見て業界にとって損とならないのだろうか。人は忘れっぽいが、メシの恨みだけは長いこと残るもの。

これまで日本人の胃袋を支えてきた素晴らしい企業たちだからこそ、これだけ不信が広がっているのだから、思うことを述べればいいだろう。

真実はまだ、“蔵”の中にある

 

「蔵を開けよ」という民の声は、今やネット空間にもこだましている。だが、名指しを避けた小泉進次郎の“爆弾発言”とぴたりと符合する企業は、意外にもまだ見当たらない。犯人は見えそうで見えない。そんなもどかしさが漂う。

だが今、求められているのは単なる“吊し上げ”ではないはずだ。数字と倫理のあいだで揺れるこの構図に、企業としてどう応答するか。問いかけられているのは、責任の所在とともに、信頼の再構築に向けた姿勢そのものなのだ。

真実は、いまだ――“蔵”の中にある。

【関連するおすすめ記事】

Tags

ライター:

ライターアイコン

寒天 かんたろう

> このライターの記事一覧

ライター歴26年。月刊誌記者を経て独立。企業経営者取材や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

関連記事

タグ