
警視庁は5月29日、東京都港区で30代のトルコ国籍男性を車に監禁し、金を脅し取ろうとしたとして、20〜60代の男女7人を逮捕監禁と恐喝未遂の容疑で逮捕した。
逮捕された男たちのうち数人が、かつて広島を拠点に覚醒剤密売などを行っていた「インターナショナル・シークレット・サービス(ISS)」の元構成員とみられる。ISSは、かつて暴力団組織とは一線を画す存在として、異様な存在感を放っていた謎の集団である。
胸割りに「坂本明浩」の名、ISSの異様な結束と都市伝説
実話ナックルズの古い特集を憶えている読者もいるだろう。
胸元に「坂本明浩」と縦に刺青を彫り込んだ男たちが並ぶ、異様な写真。ヤクザでもギャングでもない。だが、どこからどう見ても堅気ではない空気をまとった彼らは、確かに“あの時代”の裏社会に強烈な印象を残していた。
ISS――正式名称は「インターナショナル・シークレット・サービス」。色々な組織に属していた者たちが、破門や脱退を経て流れ着いた末に、自然発生的に集まったとされるこの集団は、一時期、暴力団ですら手を出せない“何か”として語られていた。
ISSの特徴を象徴するのが「坂本明浩」という名前だ。構成員の多くが胸元に「坂本明浩」と刺青を入れていたことが、実話ナックルズの特集などで報じられた。この行為は、単なる象徴ではなく、坂本明浩という人物に対する“絶対的な忠誠”の表れに他ならない。
警察関係者の中には、ISS関係者と接触した際の異様な威圧感を今でも語る者がいるという。暴力団ではないが、一般人でもない。そんな彼らが放つ“オーラ”は、今にして思えば、現代の半グレよりも先にその雛形を作っていたといえる存在だった。
火炎瓶事件・銃撃事件を起こしたISSとは何だったのか
あるいはISSの名を聞いて、2000年代初頭の凶悪事件を思い出す向きも多いだろう。中でも象徴的だったのが、2000年に神戸市のテレホンクラブ「リンリンハウス」元町店などが放火され、男性客4人が死亡した事件である。この事件では、実行犯に指示を出したとされる元会社役員・坂本明浩被告が、殺人罪などに問われ、2013年に無期懲役の判決が確定した。
この坂本被告こそ、ISS構成員たちが胸にその名を刺青として刻むほどの存在であった。単なる組織リーダーではなく、まるで精神的支柱、あるいは宗教的象徴のような人物として、今なお信仰に近い影響を及ぼしている。親分の名前を身体に刻むという行為は、不良の組織ではよくあることだが、単なるファッションではなく、絶対的な忠誠と帰属を意味していた。
組織は消え、名前が生き残る 請負型違法ビジネスの温床へ
今回の事件では、依頼主とされる米国籍の男と、被害者であるトルコ人男性の間にトラブルがあり、それをISS元構成員が“請け負う”形で関与したとみられている。これは、地下社会において、かつての実行部隊が“フリーランス化”し、暴力の請負を行っていることを示唆する事例だ。
裏社会で生き残る“名前”の力とブランド戦略
暴力団のように明確な看板を掲げることが難しくなった現在、地下社会では実行力と“過去の名前”が評価基準となる。ISSという名前、そして坂本明浩という記号は、その意味で今なお“流通しているブランド”といえる。ネット上でも、「ISSの人間が出てきた」と噂されると、その場の空気が凍るという話は後を絶たない。
警視庁は今回の事件を端緒に、ISS元構成員が関東圏で活動していた実態の解明を進めている。壊滅したはずの組織が、形を変えて今も息をしている。坂本の名を胸に刻んだ者たちが、いま再び社会の暗部で蠢きはじめている。