ミャンマー中部を襲ったM7.7の大地震、広範囲で甚大な被害

3月28日、ミャンマー標準時12時50分(日本時間15時20分)、ミャンマー中部のマンダレー近郊を震源とする大地震が発生した。震源の深さは10kmで、マグニチュード(M)は米国地質調査所(USGS)によれば7.7、タイ気象局は8.2、パリ地球物理学研究所は7.9と発表している。国内を南北に貫くザガイン断層のずれによって生じたこの地震は、ミャンマーでは1912年のメイミョー地震以来最大級の規模とされ、死者数は1930年のバゴー地震以来最悪となっている。
震源近くのマンダレー、ザガイン、バゴー地方では最大震度IX(猛烈)に達し、ネピドー連邦領でも同様の激しい揺れが観測された。この地震により、1,600人以上が死亡し、USGSの推計では1万人以上に達する可能性がある。ミャンマー政府は非常事態宣言を発令し、国際支援を要請した。
なぜミャンマーで大地震が発生したのか?地震のメカニズム
ミャンマーはインドプレートとスンダプレートの境界付近に位置し、地震活動が活発な地域である。特に、今回の震源となったザガイン断層は、過去100年間にマグニチュード7以上の地震を6回記録している。この断層は横ずれ断層であり、プレート同士が水平方向に動くことで強い揺れを引き起こした。
この横ずれ断層型の地震は、2016年の熊本地震と同様のメカニズムで発生しており、震源の浅さが被害を拡大させたと考えられている。地震発生後には100回以上の余震が観測され、本震の12分後にはマグニチュード6.7の強い余震も記録された。
被害の特徴と広範囲に及ぶ影響 ミャンマー国内の被害
今回の地震により、国内各地で甚大な被害が確認された。国民統一政府によると、少なくとも2,970棟の住宅が倒壊または損壊し、150棟の宗教施設が被害を受けた。また、道路30本が寸断され、7本の橋が崩落している。ミャンマーの首都ネピドーにある国際空港では、管制塔が崩壊し、運用停止に追い込まれた。その影響で、中国などからの救援隊はヤンゴンを経由してミャンマー入りする事態となった。
隣国にも波及した遠方被害
地震の影響はミャンマー国内にとどまらず、隣国タイの首都バンコクでも大きな被害が出た。震源地から1,000km以上離れているにもかかわらず、高層ビルが倒壊し、工事現場で作業していた約300人の労働者のうち、3月29日までに8人の死亡が確認された。タイ当局は、今後さらに死者数が増える可能性があると警戒を強めている。
また、中国の雲南省でも強い揺れがあり、ビルからの落下物により複数人が負傷した。専門家は、今回の遠方被害について「長周期地震動」が影響した可能性が高いと指摘する。
耐震構造の脆弱さが被害拡大を招いた
マンダレーでは、1階部分が潰れたり、原形をとどめないほど倒壊した建物が多数確認された。建築構造が専門の東京科学大学の和田章 名誉教授は、「壁が少なく、ガラス張りの建物が多いため、激しい揺れに対して脆弱な構造になっていた」と指摘する。また、バンコクで倒壊した建設中の高層ビルについても、「柱が細すぎるために長周期地震動と共鳴し、支えきれずに崩壊した可能性が高い」と分析している。
地震がもたらした社会・経済への影響
ミャンマー国内では地震の被害に加え、内戦の影響により救援活動が困難な状況が続いている。BBCによると、地震発生から数時間後にもシャン州で空爆が発生し、7人が死亡したという。一方で、国民統一政府は3月30日から2週間の軍事作戦を停止すると発表し、救援活動の円滑化を図る方針を示した。
また、企業活動にも影響が及んでいる。日産自動車はミャンマー工場の生産を一時停止し、トヨタ自動車もタイの一部工場で操業を停止したが、翌日から再開した。本田技研工業も地震発生後にタイの工場を一時停止したが、点検を行い当日中に再開した。
今後の課題と地震対策
今回の地震では、長周期地震動や軟弱地盤の影響、高層ビルの耐震設計の問題が浮き彫りになった。今後、ミャンマーおよび周辺国では、耐震基準の見直しや、長周期地震動に対する耐震補強の導入が急務となる。特に、耐震設計が不十分な高層ビルに対しては、構造強化が求められる。
また、今回の地震を受けて、早期警報システムの強化や国際的な支援体制の拡充も検討されている。地震多発地帯である東南アジアにおいて、今回の地震は今後の防災対策の転換点となる可能性が高い。