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冤罪は2億円で清算できるのか 警察・検察の責任を問わなければ再発は防げない 袴田事件

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司法の闇。冤罪
DALL-Eで作成

静岡地裁は24日、1966年の静岡県一家4人殺害事件で再審無罪が確定した袴田巌さん(89)に対し、刑事補償として約2億1700万円を交付すると決定した。刑事補償法では無罪が確定した場合、拘束日数に応じて1日あたり1万2500円を上限に補償すると定められており、今回の補償額は過去最高額となる可能性が高い。

しかし、半世紀近くも自由を奪われ、精神的苦痛を強いられた人間の人生を「2億円」で済ませてよいのか。

冤罪が繰り返される背景には、誤った捜査や起訴を行った警察・検察に対する責任追及の仕組みが存在しないという根本的な問題がある。

袴田さんが逮捕された1966年当時、捜査当局は「自白」を証拠の中心に据え、杜撰な鑑定や証拠の隠蔽を行っていたことが後に明らかになった。それにもかかわらず、事件を担当した警察官や検察官は処罰されることなく、昇進した者すらいる。

冤罪が発覚しても、捜査機関に対する実質的な制裁はなく、結果として責任が曖昧なまま処理される。補償金は国の予算、つまり税金で賄われ、冤罪を生んだ本人たちは一切の負担を負わない構造が続いている。

 

欧米における警察官の処罰事例

日本と異なり、欧米では警察官の不正行為に対する責任追及の仕組みが存在する。アメリカでは、市民が警察を訴えるケースが多く、司法の場で責任を問うことが可能だ。1966年の「ミランダ対アリゾナ州」事件では、被疑者の権利が適切に告知されなかったことが問題視され、以後「ミランダ警告」が義務付けられた。

このように、冤罪を生まないための制度改革が司法の場で進められている。

一方、ドイツでは警察官の不正行為に対する訴訟件数は少なく、起訴率も極めて低い。2016年のデータによると、警察の不適切な行為に対する訴訟のうち、正式に起訴されたのはわずか3%にとどまった。証拠の不足や、同僚警察官による証言拒否が主な要因とされ、市民の間では「警察官を訴えて成功した例はほとんどない」との批判もある。欧米においても、制度は整えられているものの、その実効性には課題が残っている。

 

日本には独立した冤罪検証機関がない

また、欧米には冤罪の再検証を行う独立した公的機関が存在する。イギリスには「刑事事件再審委員会(Criminal Cases Review Commission, CCRC)」があり、冤罪の可能性がある事件を調査し、再審の必要性を判断している。

アメリカでは、各州に「イノセンス・プロジェクト(Innocence Project)」と呼ばれる非営利団体が設立され、DNA鑑定などの新たな証拠を用いて冤罪の救済に取り組んでいる。これらの機関は警察や検察から独立し、冤罪の防止と是正に寄与している。

一方、日本にはこのような独立機関が存在しない。再審制度は刑事訴訟法に定められているものの、わずか19条しかなく、証拠開示の基準や手続が明確ではない。日弁連は「ACT for RETRIAL」というプロジェクトを立ち上げ、再審制度の改善を求めているが、政府による独立機関の設立には至っていない。再審請求が長期化し、再審開始の決定が極めて困難な状況が続いているのも、日本の司法制度の大きな問題点だ。

 

冤罪を防ぐために必要な制度改革

日本では、警察・検察が主導する捜査が絶対視され、起訴されれば99.9%が有罪となる異常な状況が続いている。欧米のように独立した「冤罪検証機関」を設け、過去の冤罪事件を徹底的に分析し、制度改革につなげる必要がある。また、冤罪を引き起こした警察官や検察官に対し、刑事・民事責任を問う仕組みを導入すべきだ。証拠の捏造や違法な取り調べが発覚した場合、関与した者が処罰される仕組みがなければ、冤罪は繰り返される。

さらに、取り調べの全面可視化を義務付けることで、密室での自白強要を防ぐ必要がある。加えて、検察が持つ証拠を弁護側にも開示する「証拠開示制度」を強化し、一方的な起訴を防ぐ仕組みを導入することが求められる。こうした改革なくして、日本の刑事司法は変わらない。

 

2億円で冤罪の責任は終わらない

再審無罪となった袴田さんへの補償が「過去最高額」として報じられることで、この問題が終結したかのような印象を与えてはならない。冤罪をなくすには、警察・検察に責任を負わせる制度を作り、再発防止策を講じる必要がある。2億円の補償は一つの区切りにすぎず、今後も冤罪が生まれない仕組みを構築しなければ、同じ悲劇は繰り返される。

何より、当時の警察・検察担当者を逮捕、賠償請求、責任追及ができる仕組みが必要だ。逮捕という大きな権力行使ができる存在をこれ以上甘やかしてはならない。今回のような明らかな冤罪を生み出す仕組みは絶たなければならない。

当時の捜査担当者は極悪の犯罪者そのものであり、ある種そこらの死刑囚よりも悪質であり、もし反省がないのであれば、生かしてはおけない存在だ。捜査ミスの責任追及がされることで、捜査が委縮するという指摘もあるが、袴田さんはじめ数多くの無辜の被害者を生みだしてしまっている以上、悪法捜査を絶たなければ、いつまでたっても日本の司法レベルの低さが改善しない。

今回の判決を、司法制度改革の契機とすることこそが、真の意味での「償い」ではないだろうか。

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寒天 かんたろう

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ライター歴25年。月刊誌記者を経て独立。伝統的な日本型企業の経営や大学、高校、通信教育分野などの取材経験が豊富。

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